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一般常識

ベーシックインカムとは?13のメリット・デメリットと導入した国6選

ベーシックインカムとは?13のメリット・デメリットと導入した国6選

近年世界をとりまく状況は、日に日に厳しさを増しています。さまざまな問題が市民にのしかかる中、生活に困る世帯も増加していますが、そうした問題の解決手段として期待されているのが、「ベーシックインカム」という制度です。海外でも実験的な導入に踏み切る国や自治体が増えるなど、にわかに脚光を浴びつつあるベーシックインカムですが、そもそもどのようなものなのでしょうか。

本記事では、ベーシックインカムの基本的な意味やメリット・デメリット、また導入した国などについて詳しく解説していきたいと思います。

ベーシックインカムとは?注目される理由と背景

ベーシックインカムの意味とは?

「ベーシックインカム」とは、「最低限所得保障」と呼ばれる制度の一種で、政府がすべての国民に対し、生きていくのに必要な最低限度のお金を、無条件で定期的に支給することを指します。
英語では「Basic Income」と書かれますが、「Basic」は「基本・基準」を、「Income」は、「所得」を意味しています。「BI」と略して呼ばれることもあります。

ベーシックインカムの最も特徴的な点は、支給が「無条件かつすべての国民に対し行われる」というところです。この点を完全に満たしているものを、「ユニバーサルベーシックインカム(UBI)」と呼んで区別する場合もあります。
現在の社会保障制度として、高齢者への年金や低所得者への生活保護など、一定の条件を満たした人への現金支給は行われていますが、ベーシックインカムでは支給に必要な条件などは特にありません。また、受給に際して申請なども求められない点も、ベーシックインカムの特徴の1つとなっています。

注目される理由と背景

ベーシックインカムの考え自体は新しいものではなく、構想の起源は16世紀にまでさかのぼることができます。それが近年になって大きな注目を集めているのには、いくつかの理由があります。1つは新型コロナウイルスの流行で、経済活動が抑えられた結果、自助努力では生活の維持が困難になる人が続出し、政府の補助を求める声が大きくなりました。

もう1つは、国際的に貧富の差が激しくなっているという事実です。日本でも「ワーキングプア」と呼ばれる層が広がっていますが、いくら働いても生活が安定しないという人は、欧米でもどんどん増加しています。
また、少子高齢化による年金制度への不安、AIの進化に伴う将来的な仕事への不安なども、ベーシックインカムが注目される背景の1つとなっています。

メリットとデメリット

上ではベーシックインカムの意味や、注目される背景について見ましたが、具体的にはどのような利点や難点があるのかも知りたいところです。以下の項目では、ベーシックインカムのメリットとデメリットの両方について、それぞれ主なものをいくつか挙げて説明していきましょう。

メリット

貧困と少子化への対策

貧困と少子化への対策

ベーシックインカムのメリットとしてまず挙げられるのが、「貧困と少子化への対策になる」ということです。

上でも述べたように、近年は「貧困層の増加」が国際的な問題となっていますが、ベーシックインカムで継続して現金の支給が受けられるようになれば、生活レベルを上げて貧困から抜け出せる世帯も増えるはずです。また、子供も支給対象となることで出産に前向きになる世帯が増えると見込まれますから、少子化対策としての効果も期待できます。

労働環境の改善

労働環境の改善

ベーシックインカムの2つ目のメリットは、「労働環境を改善できる」という点です。

「ブラック企業」という言葉の定着からも分かるように、近年の日本では、労働環境の悪化が大きな問題となっています。この背景にあるのが、所得の確保のため、劣悪な環境でも我慢して働かなくてはならないという労働者の意識です。しかし、ベーシックインカムで最低限の生活が保障されるようになれば、無理して悪い労働環境に耐える必要はなくなります。企業側としても、労働者に忌避されるのは経営の根幹に関わりますから、労働環境の改善に取り組むところが増えると考えられます。

働き方の多様化

働き方の多様化

「働き方の多様化が実現できる」ことも、ベーシックインカムのメリットの1つでしょう。

近年は日本でも「働き方改革」が叫ばれるようになっていますが、多くの人にとっては、今の生活の維持のために目いっぱい働かなくてはならないというのが、現実の状況です。
これに対し、最低限の生活を保障するベーシックインカムが導入されれば、より自由な選択が可能となります。無理な残業をする必要もありませんし、子育てや介護などに携わる場合でも、限られた時間での労働がしやすくなります。

起業や開発の促進

起業や開発の促進

ベーシックインカムのメリット、4つ目に挙げるのは、「起業や自由な開発が促進される」ということです。

デジタル技術やAIの発達が目覚ましい現在、将来的にはより少ないコストでの社会の維持が実現され、それによって雇用や労働市場も大きく変化すると見られています。そうなってくると、求められるのが雇用に代わる起業や新しい発想に基づく自由な開発などですが、所得が保障されるベーシックインカムの導入は、これらの強力な後押しになると考えられています。

行政コストの削減

行政コストの削減

ベーシックインカムの導入は、行政側にとってもメリットがあると考えられています。
現在行われている年金や生活保護などの社会保障では、申し込みや審査などの手続きが不可欠ですが、これには多くの時間や人手などのコストが必要になります。
一方、ベーシックインカムの場合は、前にも述べた通り無条件で支給されるため、申請なども必要ありません。つまり、行政側としては、それまで社会保障に費やしていた手間や労働力を大幅に削減できるということで、これがコストの軽減につながると期待されています。

地方の活性化

地方の活性化

「地方の活性化につながる」ということも、ベーシックインカムのメリットとして取り上げられることがあります。

人口の流出や高齢化など、「地方の疲弊」は現在の日本の主要な問題点と認識されています。この原因の1つとして挙げられるのが、都市圏と地方の間にある所得格差です。
一方、前述のようにベーシックインカムは生活に最低限必要な額が支給されますが、これが全国一律と仮定すると、相対的に物価の安い地方での生活を選ぶ層が増えるという意見もあります。

景気の回復効果

景気の回復効果

ベーシックインカムのメリット、7つ目に挙げるのは、「景気回復効果」です。

景気を刺激する対策としては、消費を増やすことが基本となります。それには収入の増加が前提となりますが、ベーシックインカムの導入でこれが実現されます。財の購入については、高所得者より低所得者の方が多い傾向があるとされますが、税金を財源とするならば、ベーシックインカムは高所得者の貯蓄から消費に回される貨幣の割合を増やすことになると考えられます。

非正規雇用問題の緩和に役立つ

非正規雇用問題の緩和に役立つ

「正社員と非正社員との間の格差」も、日本の主要な労働問題の1つですが、ベーシックインカムにはこれを緩和するメリットがあると言われています。

非正社員は、正社員と同じ内容の仕事をしているにもかかわらず、賃金や社会保障の面では大きなハンデを背負うことが多くなっています。しかも、所得が不安定なために課税の面でも不利な状況に置かれやすくなっていますが、ベーシックインカムの導入で、こうした格差を是正しやすくなると考えられています。

犯罪の抑制

犯罪の抑制

ベーシックインカムの主要なメリット、最後に挙げるのは、「犯罪の抑制効果」です。

犯罪の発生には、貧困が大きく関係していると言われています。もちろん、犯罪の原因は1つでなく、場合によってさまざまですが、貧しさから盗みなどを働くケースは少なくありません。特に青少年の場合は、劣悪な生活環境から非行に走るケースが多くなっています。
これに対し、ベーシックインカムで最低限の生活を保障することにより、生活苦による強盗や、少年非行などの発生率を抑えられると期待されています。

デメリット

財源についての問題

財源についての問題

ベーシックインカムのデメリット、1つ目に挙げるのは、「財源の確保が難しい」ということです。

すでに何度も述べているように、ベーシックインカムでは生活に最低限必要な金額が支給されます。日本の場合、約1億2500万人の国民に月々7万円の保障を行うとすると、必要な予算は1年間で約105兆円ということになります。当然ですが、それだけの規模の財源を確保するのは、決して容易ではありません。しかも最低限の生活の保障となれば、7万円以上は必要ですから、財源を捻出しようとすると、大幅な増税も想定されてきます。

労働意欲が低下するおそれ

労働意欲が低下するおそれ

ベーシックインカムには、労働人口を増加させる効果が期待されていますが、それとは逆に、大勢の労働意欲を低下させかねないというデメリットも指摘されています。なぜならば、無条件で最低限の生活が保障されるということは、働かなくてもとりあえず生活は可能ということになるためです。

肯定派の意見では、より多くの収入を求めたり、社会的アイデンティティのために働く人が多いはずとしていますが、反対派ではまったく逆の効果が現れることへの危惧が強くなっています。

経済競争力低下のおそれも

経済競争力低下のおそれも

ベーシックインカムのデメリットとして言われているものに、「企業の経済競争力を弱めるおそれがある」ということがあります。

上では、ベーシックインカムの導入で労働者はより条件の良い職場に移りやすくなると述べましたが、企業側としては労働者を呼び込むため、賃金を高く設定する必要が出てきます。人気のない企業ほどそうせざるを得ませんが、そうなれば残る利益は少なくなり、競争力は低下していきます。また、国が財源捻出のために増税に踏み切った結果、企業は利益の確保のために商品やサービスを値上げし、物価の上昇を招いて経済競争力を弱めるという意見もあります。

所得の再分配機能が低下する

所得の再分配機能が低下する

ベーシックインカムのデメリット、最後に挙げるのは、「所得の再分配機能の低下」です。

「所得の再分配」とは、大まかに言えば、「高額所得者には多く課税し、その分を低所得者に社会保障などの形で回す」という仕組みのことです。社会の格差を埋めるための仕組みですが、ベーシックインカムの導入で、この機能が弱まることを危惧する声があります。これは、ベーシックインカムが高所得者も低所得者も一律に同じ額を支給することによります。

ベーシックインカムを導入している国

ドイツ

ドイツ

ドイツでは、2020年の8月から、ベーシックインカムの実証実験を開始しています。この実験では、第1フェーズで採用した1,500人の被験者のうち、無作為に選んだ120人に、1人あたま月1,200ユーロ(約15万円)を3年間無条件で支給していきます。ほかの1,380人については、観察された変化が実際にベーシックインカムの影響によるものかどうかを確認するための、比較グループとして扱われます。

支給が開始されるのは2021年の春からで、各参加者は、「雇用」「時間の使用」「消費者の行動」などに関する質問を含むオンラインアンケートに回答することになります。この実験にかかる予算は約520万ユーロ(約6億5千万円)で、資金は民間の寄付によって集められる予定となっています。

https://www.newsweekjapan.jp/takemura/2020/08/post-5.php

フィンランド

フィンランド

フィンランドでは、2017年1月~2018年12月の約2年間にかけて、ベーシックインカムの実証実験が行われました。この実験では、25~58歳の失業者2千人に対し、毎月560ユーロ(約6万6千円)が支給されています。もちろん申請手続きは不要で、受給期間中に仕事が見つかった場合でも、支給は継続されます。これによって、通常の失業給付を受けるグループに対し、ベーシックインカムでどれだけ働く意欲や雇用の増加といった効果が得られるかの検証が行われました。

その結果、参加者にはストレス軽減などポジティブな反応が見られたものの、政府が最も期待した雇用への効果は、思うほど得られなかったという結論が出ています。ただ、就労について積極的に働きかけている参加者も多く、この点はベーシックインカムが労働意欲を削ぐという意見への反証になるとの見方もあります。

https://globe.asahi.com/article/13420233

スペイン

スペイン

スペイン政府は、2020年5月29日にベーシックインカムの導入を閣議決定し、6月中旬から申請の受付を開始しています。これは、選挙前から公約に掲げられていた政策ですが、新型コロナウイルス感染拡大による経済へのダメージを受けて、前倒しで承認されました。ただ、これは対象を低所得者に限定していることから、本来的な意味でのベーシックインカムとは違うとする向きが多くなっています。

対象となるのはスペイン全土のうち85万世帯で、1人暮らしの成人には月額462ユーロ(約5万8000円)を保障、家族の場合は、成人・未成年問わず1人あたり139ユーロ(約1万7000円)が追加されます(ただし、上限は月約12万8000円まで)。注目を集めて始まった制度ですが、申請が殺到したため、現在のところ審査は停滞した状況となっています。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00122/070700035/

ブラジル

ブラジル

ブラジルのマリカという都市では、2013年からベーシックインカムを実施しています。
マリカは人口16万の小都市ですが、周辺の街が新型コロナウイルスの影響で雇用の減少に見舞われる中、ここでは新規の雇用者数が失業者の数を上回ったということで、欧米メディアからは「奇跡の街」などと呼ばれました。この原動力となったと言われているのが、独自に行われているベーシックインカムです。

具体的には、地域通貨「ムンブカ」として、カードなどへ毎月一定額が振り込まれる形で、貧困層を中心に市の約4人に1人が受給しています。支給額は、現在コロナ禍で増やされており、3人家族では1月あたり900ムンブカ(約1万9000円)となっています。ムンブカは加盟店でのみ使用が可能で、貧困層への支援と同時に、地域経済を回して雇用を創出する機能を持っています。

https://courrier.jp/columns/213022/

アメリカ(カリフォルニア州オークランド市・ストックトン市)

アメリカ(カリフォルニア州オークランド市・ストックトン市)

アメリカカリフォルニア州のストックトン市では、2019年2月からベーシックインカムの実験が行われています。これは、市民125人を対象に、24ヵ月間にわたって毎月500ドルを支給するというものです。対象となったのは、「18歳以上のストックトン在住者で、世帯収入が4万6033ドル(約497万円)以下」という条件の中から無作為に選んだ人々で、資金は個人の寄付によって賄われました。

初年度の調査では、支給された額の大部分が食品と日用品に使われたとのことで、アルコールやタバコなどに使われたのは、ほんのわずかの額でした。また、同じカリフォルニア州のオークランド市でも、人種間の貧富差の縮小を目的としたベーシックインカムの導入実験(支給額500ドル)を、2021年夏から1年半にかけて行うと発表しています。

https://www.businessinsider.jp/post-230850

カナダ

カナダ

ベーシックインカムの導入例、最後に紹介するのは、カナダのケースです。
カナダでは、1970年代にマニトバ州で、ベーシックインカムのパイロットプログラムが実施されました。しかし、この実験は政権交代により、中途半端な形での終了を余儀なくされています。データの分析も長らく行われていませんでしたが、2011年になってようやく最終レポートが発行されました。それによると、主に社会保障(入院期間の減少)と教育(学校の進級)の2分野で成果が得られたとのことです。

その後カナダでは、2017年にオンタリオ州で再び導入実験が行われています。こちらは18~64歳の低所得者4000人を対象として、単身者に最高1万6989カナダドル(約139万円)を、夫婦に最高2万4027カナダドル(約196万円)を3年間支給するというものですが、やはり政権が交代したのをきっかけに、2019年3月に中止されています。

https://www.businessinsider.jp/post-33696

ベーシックインカムとは?13のメリット・デメリットと導入した国6選

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