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ビジネス用語

「出向」の意味とは?使い方や例文・「左遷」「転籍」との違い

「出向」の意味とは?使い方や例文・「左遷」「転籍」との違い

監修者

弁護士:村岡つばさ(よつば総合法律事務所千葉事務所)

よつば総合法律事務所千葉事務所

弁護士 村岡つばさ

よつば総合法律事務所の弁護士の村岡と申します。日常生活や会社を運営する中で気になる法律の問題を分かりやすく解説します。

「出向」という言葉は、ビジネスシーンでは比較的おなじみのものです。特に、グループ会社等がある比較的大きな会社に勤めている方は、「出向経験がある」方も珍しくないでしょう。
他方、ある著名なドラマで、出向=「片道切符の島流し」と呼ばれていたことなどから、正確な意味は分からないものの、なんとなく良くないものという印象を持たれている方も多いかもしれません。

今回は、「出向」の意味や使い方、そして同じような文脈で使われる「左遷」や「転籍」との違いについて、詳しく解説していきたいと思います。

「出向」の意味

「出向」とは

「出向(しゅっこう)」とは、企業間の従業員の移動形態の1つで、雇用されている企業に籍(従業員の地位)を置いたまま、別の企業で相当期間にわたって勤務することを意味します。雇用されている企業を「出向元」、実際に勤務する別の企業を「出向先」などと言い、特に、グループ会社、親会社-子会社間で出向が行われるケースが多いです。元の会社に籍が残るため、後に述べる「転籍」との区別の観点から、「在籍出向」と呼ばれることもあります。

出向中の権利関係は実は複雑で、出向する労働者は、当然、出向元との間で雇用契約がありますが、出向先との間でも雇用契約が成立しており、雇用契約が二重に存在すると考えられています。

在籍型出向

なお、雇用契約上、出向を命じるための明確な根拠規定(就業規則等)がある場合には、会社は労働者に出向を命じることができ、労働者は基本的に、これを拒むことはできません。
ただし、出向命令が「権利の濫用」に当たる場合には、出向命令は無効となります。

労働契約法第14条(出向)

使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

「出向」がよく見られる職種

一般的には、「銀行員」や「公務員」が、出向の多い職種と言われています。
銀行員では、籍を元の銀行に置いたまま、関連会社や融資先の企業に出向するケースがよく見られます。
公務員では、「公務員内の出向」が行われることもありますが、民間企業に出向となるケースもあります。
例えば、法曹関係でも、裁判官が検察庁に出向すること(公務員内の出向)も、裁判官が弁護士事務所に出向(民間企業への出向)することもあります。

「出向」の使い方・例文

ビジネスシーンだと、以下のような文脈で「出向」という単語が使われることが多いです。
以下、例文をいくつか挙げてみました。

例文:「システム開発のために、客先にエンジニアとして出向することになった」

例文:「ベンチャー企業への出向は、新たに経験値を増やすチャンスだ」

例文:「新しく買収した企業に、経理部門長として出向する」

例文:「会社から出向を打診されていて、受けるかどうか悩んでいる」

例文:「あの会社に出向に行くくらいなら、会社を辞めます」

「出向」の目的

出向は、単に労働力の調整として活用されることもありますが、「出向労働者の経験や能力向上」を目的として行われることも多くあります。
そのため、「島流し」的に出向が使われる場面もありますが、労働者にとってプラスとなる出向も多くあります。
以下、よくある出向の目的を記載してみました。

人材育成

まず挙げられるのが、「人材育成」という目的です。他社で就労することで、勉強と経験を積むことを目的としています。20~30代と比較的若い年齢での「出向」であれば、ほとんどはこちらのケースかと思います。

業績拡大

実績のある優秀な人材をリーダーとして送り込むことで、出向先の経営戦略などについて指導を行い、業績をアップさせることを目的に、出向が行われることがあります。

企業間の人材交流

M&Aなどで新しくグループに加わった企業に、買収元企業の従業員が出向するケースが多いです。業務提携を容易にするなど、単に企業間の関係性の向上を目的する場合もありますが、より進んで、企業理念を浸透させること等を目的として出向が行われることもあります。

雇用調整

労働力の適性な配置や、人員調整のために出向が用いられることもあります。例えば、業務縮小等で余剰人員が生じてしまい、他社に出向させるケースや、グループ会社で急遽退職者が出てしまい、人員が足りなくなったために出向を行ってもらうケース等があります。

「出向」と「左遷」「転籍」との違い

「出向」と使われるシーンが似ている単語として、「左遷」「転籍」という単語がありますが、それぞれの意味と「出向」との違いについて見ていきます。

「左遷(させん)」とは

ビジネスシーンで言う「左遷」とは、「役職や地位を引き下げること」を意味します。「出世コースから外れた部署への移動」という趣旨で使われることもあります。

先に見た通り、「出向」は、必ずしもマイナスの意味合いで行われるものではなく、「出向労働者の経験や能力向上」を目的に、前向きに行われる出向も沢山あります。そのため、出向=左遷というわけではありません。
ただし、中には、「島流し」的な出向が行われることもあり、このような場合には、出向が左遷としての意味も持つ、ということはあります。
なお、「出向」が法律用語であるのに対し、「左遷」は法律用語ではない(法律で規定されているわけではない)という点の違いもあります。

「転籍」とは

「転籍」とは、元の会社との雇用契約を解消して、新たな会社での雇用契約を開始することを言います。関連企業同士で行われることが多いことや、その目的は、「出向」とも共有しています。
しかし、出向が「元の企業に籍を置いたまま」他社で勤務するのに対し、転籍は、「元の会社との雇用契約を解消」するという点で大きな違いがあります。
このように転籍は、雇用解消+新たな雇用の開始というものですので、必ず労働者の個別の同意が必要となります。他方、出向は、労働者の同意がなくとも、出向を「命じる」ことが可能です。

最後に

以上、ビジネスシーンで使われる「出向」の意味や使い方などについて、詳しく見てきました。

「出向」というと何となく悪いイメージがあった人も、こうして見てくると、必ずしもマイナスなものではないということが分かったかと思います。
「出向」の理由や目的はさまざまであり、ポジティブな「出向」も少なくないため、単に「出向」というだけでマイナスに考えるのではなく、会社の意図や出向の目的が大事かと思います。

「出向」の意味とは?使い方や例文・「左遷」「転籍」との違い

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