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法務・法律

「誤振込」とは?誤振込の民事上・刑事上のルールや責任について

「誤振込」とは?誤振込の民事上・刑事上のルールや責任について

監修者

弁護士:村岡つばさ(よつば総合法律事務所千葉事務所)

よつば総合法律事務所千葉事務所

弁護士 村岡つばさ

よつば総合法律事務所の弁護士の村岡と申します。日常生活や会社を運営する中で気になる法律の問題を分かりやすく解説します。

「誤振込」とは?誤振込の民事上・刑事上のルールや責任について

「市の職員が4630万円を誤振込してしまった」という報道が、世間で非常に注目を集めています。よくよく報道を見ると、本来、463世帯に10万円ずつ振り込む予定が、誤って1世帯に4630万円を振り込んでしまったそうです。
特に、この事案では、誤振込を受けた方が、既に全額使ってしまったとして返還を拒否したことから、行政の対応を含め、大きな注目を受けました。

実はこのような「誤振込」の相談が法律事務所に寄せられることも少なくありません。
今回は、「誤振込」の意味や民事上・刑事上のルール、責任などについて、解説していきます。

そもそも「誤振込」とは?

「誤振込」とは、その名の通り、本来振込を予定していた口座とは別の口座に、誤って振り込んでしまうことを言います。冒頭で記載した報道はやや特殊な事例ですが、誤振込の一種です。
誤振込の理由は様々なものがありますが、一番多いのは、「口座番号の間違い」かと思います。口座番号が誤っている場合でも、口座名義人の欄を確認することにより、違う口座に振り込もうとしていることは分かりますが、名義人を十分に確認することなく振込手続をすると、誤振込を行ってしまうリスクがあります。

一度誤振込を行ってしまうと、後述の通り、お金を戻して貰うために、色々な手続が必要となることがあります。振込前に、口座番号・口座名義人があっているかを必ず確認するようにしましょう。

誤振込があった場合の民事上のルール・責任

当然ですが、誤振込されたお金については、民事上、送金者に返金する必要があります。
民法上は、「不当利得」と呼ばれます。単に誤って振り込まれただけであり、本来使用できるお金ではないので、当然の帰結ではあります。

では、返金を求める場合の流れはどのようになるのでしょうか。

まずは、誤振込をしてしまった金融機関(銀行等)を経由して、任意で返金を求めることとなります。これは「組戻し」などと呼ばれます。
「組戻し」とは、振込手続が完了した後に、振込を依頼した側の都合(振込先や金額の誤り等)で、その振込を取り消すための手続です(各銀行のホームページなどで、組戻しの方法等が記載されています。)。

ただ、この「組戻し」を行うためには、受取人の同意が原則として必要です。今回お話する「誤振込」の場合には、誤って受け取った人の同意が必要というわけです。

受取人が組戻しに応じてくれれば問題はないですが、冒頭で記載した報道のように、受取人が組戻しに応じない、返金を拒否するような場合には、裁判を提起して、強制的に回収を実現する必要があります。ただし、裁判で請求が認められた場合(=判決が出た場合)でも、自動的に返金がなされるわけではありません。受取人が返金を行わない場合には、「強制執行」を行う必要がありますが、相手方がどのような財産を、どこに保有しているかを、請求する側が特定する必要があるため、回収は容易ではないのが実情です。

なお、不当利得の請求には「消滅時効」があります。消滅時効とは、一定期間権利を行使しない(請求しない)と、請求ができなくなってしまうことを意味します。
誤振込(不当利得)の場合には、
・権利を行使できることを知った時から5年間
・権利を行使できるときから10年間
で時効にかかります。
両者の違いが若干分かりにくいですが、非常に簡単に説明すると、誤振込をしたことに気付いてから5年間か、誤振込をしたときから10年間経過すると、消滅時効にかかります。そのため、受取人が消滅時効を主張すれば、基本的には返還請求ができなくなってしまうので、注意が必要です。

誤振込があった場合の刑事上のルール・責任

上記は民事上のルールですが、誤振込がなされた後、対応次第では、受取人が刑事罰を負う可能性もあります。

自分の口座に入ったお金を下ろしただけなのに犯罪?という疑問もあるかと思いますが、例えば裁判所は、誤振込を受けた人が、誤振込であることを認識しながら、窓口で預金の払い戻しを受けた事案において、以下のように詐欺罪が成立すると判断しています。

「誤った振込みがあることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻しを請求することは、詐欺罪の欺罔行為に当たり、また、誤った振込みの有無に関する錯誤は同罪の錯誤に当たるというべきであるから、錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には、詐欺罪が成立する」

また、冒頭の事案は、窓口ではなく主にネットバンキングを使って他の口座に送金した事案ですが、この場合でも「電子計算機使用詐欺罪」が成立する可能性があります(ATMでの引き出しの場合には、窃盗罪が成立する可能性があります。)。現に、この事案の受取人は、「電子計算機使用詐欺罪」の疑いで逮捕されたことが大々的に報道されていました。

なお、刑事罰を受ける可能性があるのは、あくまでも「誤振込であることを認識して」預金を引き出したり、送金してしまうケースであり、「認識しないまま、不注意で」預金を引き出してしまった場合には、詐欺罪等は成立しません。ただし、この場合でも、引き出しのタイミングや誤振込の金額の大きさ等から、「本当に誤振込を認識していなかったのか」が厳しく問われる可能性もありますので、少しでも残高等に違和感を覚えたら、念のため取引履歴を確認するのが良いでしょう。

「誤振込」とは?誤振込の民事上・刑事上のルールや責任について

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