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ビジネス知識

電車の遅延による遅刻は遅延証明書があっても遅刻扱いになる!?

電車の遅延による遅刻は遅延証明書があっても遅刻扱いになる!?

監修者

弁護士:村岡つばさ(よつば総合法律事務所千葉事務所)

よつば総合法律事務所千葉事務所

弁護士 村岡つばさ

よつば総合法律事務所の弁護士の村岡と申します。日常生活や会社を運営する中で気になる法律の問題を分かりやすく解説します。

電車の遅延による遅刻は遅延証明書があっても遅刻扱いになる!?

この記事を読まれている方も、電車通勤をされている方が大半かと思いますが、通勤時、人身事故等の理由により電車が遅れ、会社に間に合わなかったことはありませんか?
このような場合、通常、窓口で「遅延証明書」を貰うことができますが、遅延証明書を会社に提出すれば、遅刻として扱われないのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。

ノーワーク・ノーペイの原則

いきなり難しそうな単語が出てきましたが、雇用契約においては、「ノーワーク・ノーペイの原則」というルールがあります。「働かなければ給料も払わない」という、非常にシンプルなルールです。
民法は、「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない」(624条1項)と定めており、この条文から、上記のルールが導かれると考えられています。

例えば、体調を崩した等の理由により会社を欠勤した場合、有給休暇等を取得しない場合には、会社は給与を支払う義務はありません。働いていない以上、当然ではありますね。

今回問題となっているような遅刻も、この原則が当てはまります。勤務開始時間が9時となっていたが、電車の遅延により10時に会社に着いた場合を想定すると、この9時から10時の1時間は、本来働くべきであったのに、働いていない時間となります。会社としても、実際に働いていない1時間について、給与を払うべき理由もないため、ノーワーク・ノーペイの原則により、1時間分の給与を支払わない(減給する)といった対応も、何ら法的には問題ないこととなります。労働者側としては、不可抗力と言いたいところではありますが、会社の責任でもないので、結論としてはやむを得ないでしょう。

ただし、実際には、電車遅延等やむを得ない遅刻の場合には、給与を減額せず、そのまま満額を支給してくれる会社の方が、圧倒的に多いと思います。

就業規則等で別途取り決めがされていることもある

上記はあくまでも法律のルールに則ったお話ですが、会社によっては、就業規則で個別に、遅刻に関するルールを定めています。

例えば、単に、「始業時間に遅れた場合には遅刻とする」とのみ定めている場合には、上でみた「ノーワーク・ノーペイの原則」に則り、給与を減額することとなります(ただし実際には減給しない会社が多いでしょう)。

他方、就業規則で、「始業時間に遅れた場合には遅刻とする。ただし、労働者の責めに帰すことができない事由による場合にはこの限りではない。」という定めがある場合には、今回のような電車遅延であれば、遅刻と扱われないのが通常です。
この場合、給与が全額支給されるかは微妙なところです。「遅刻と扱わない」というのは、①懲戒処分等のペナルティーを科さないという意味も、②給与を減額しないという意味も、どちらも含まれ得るからです。通常の解釈であれば、①も②も含まれており、ペナルティーも科されないし、給与も減額されない、という判断になろうかと思います。

懲戒処分は違法となる可能性が高い

ここまでは、主に「給与が支払われるか」という観点でお話をしてきました。
では、遅刻したことを理由に、懲戒処分等のペナルティーを科すことはできるのでしょうか。

懲戒処分とは、労働者の問題行動に対して、会社が処罰を科すことを意味します。具体的には、戒告(かいこく)、譴責(けんせき)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの懲戒処分があります。戒告・譴責は、会社が労働者に注意・指導を行い、反省文の提出を求める程度のものですが、重い処分となると、雇用契約の解消(諭旨解雇・懲戒解雇)に至るものもあります。

勿論、正当な理由のない遅刻は、職場の秩序を乱す行為であり、会社としては容認しがたい行為と言えます。そのため、勿論頻度や理由にもよりますが、口頭の注意でも改善しない場合には、懲戒処分も検討していくこととなります。
他方、今回のように、電車遅延という、本人の不注意にもよらない理由による遅刻に対し、懲戒処分を行うのは問題があります。あくまでも懲戒処分は、労働者の「問題行動」に対して科すものですが、電車遅延の場合、労働者本人に問題はないからです。
そのため、そもそも戒告・譴責といった軽い処分を科すことすらできないと思われますし、より重い減給処分はできないでしょう。

もし、電車遅延が理由であるにも関わらず、懲戒処分を科された場合には、勿論ケースバイケースではあると思いますが、違法な懲戒処分である可能性が高いと言えます。

会社から30分前の出社を義務付けられた場合

全く別の設定として、会社から、「始業時間の30分前に出社すること」を義務付けられていた場合はどうでしょうか。

いくら会社の指示があった場合でも、労働者が「始業時間の30分前に出社する」義務はありません。
労働者は、あくまでも、始業時間に間に合うように出社すればよいからです。
そのため、電車遅延により、「始業時間の30分前」には間に合わなかったとしても、始業時間にさえ間に合って入れば、遅刻うんぬんの問題にはなりません。

なお、このケースのように、30分前の出社を義務付けられており、実際に30分前に出社をしているような場合には、この「30分」の労働が義務付けられたとして、残業代を請求できる可能性があります。

電車の遅延による遅刻は遅延証明書があっても遅刻扱いになる!?

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