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ワーキングプアとは?原因と対策10選

ワーキングプアとは?原因と対策10選

日本国内の経済状況が停滞を続ける中、「貧困」の問題が取り上げられる回数は日に日に増えていますが、それに関連して近年よく聞かれるようになった言葉に、「ワーキングプア」というものがあります。ほとんどの人が一度は耳にしたことがあると思いますが、詳しい意味合いはよく知らないという人も多いでしょう。

本記事では、現在日本だけでなく世界的な問題となっている「ワーキングプア」について、その意味や発生する原因、さらに抑制のための対策について解説しますので、参考にしてみてください。

ワーキングプアとは?日本の現状

ワーキングプアの意味とは?

「ワーキングプア」とは、「正社員と同等、もしくは正社員としてフルタイムで働いているにもかかわらず、貧困から抜け出せない労働者」を意味する言葉です。英語の「Working poor」をカタカナ化した言葉で、日本語では「働く貧困層」などと訳されます。「ワープア」と略して呼ばれることもあります。

貧困というと、一般的には失業者が陥るものとの認識がありますが、実際には就業して長時間働いているのに、低賃金で生活がままならないという層が多く存在しています。資本主義の先進国、たとえばアメリカやカナダ、スペイン、イタリアなどで多く発生しており、日本でも近年は、「ワーキングプア」の問題が頻繁に取り上げられるようになっています。日本における「ワーキングプア」の基準は、年収200万円程度が1つの目安となっています。

日本の現状

数字の上から、現在の日本におけるワーキングプアの状況について見てみましょう。

総務省統計局が発表した2019年の「労働力調査」(詳細集計)によると、役員を除いた雇用者5596万人のうち、非正規の職員・従業員は2120万人となっています。これは、全体の37%にあたる数字です。

一方、年間収入別で見てみると、2018年に200万円に届かなかった人の数は、正規・非正規合わせて1873万人となっています。割合にすると、総数5660万人中33%ほどの人が、ワーキングプア層にあたることになります。

さらに、非正規従業員で年収200万未満の層を男女別の割合で見てみると、男性24.1%、女性75.9%となります。このように、現在の日本のワーキングプア層は、圧倒的に女性が多くを占めるということが見て取れます。

原因

上では「ワーキングプア」の意味や、日本における現状について説明しましたが、そもそもなぜこうした層が発生してしまうのでしょうか。以下の項目では、「ワーキングプア」が発生する原因について、主なものをピックアップして紹介していきましょう。

経済的・社会的な問題

ワーキングプア層が発生する原因として、経済や社会面での問題が挙げられます。

国内経済は、長年厳しい状況が続いており、国民1人当たりの名目所得も停滞する傾向にあります。このため、正社員の立場であっても給料が上がらず、非正規雇用であれば、なおさら低賃金のまま据え置かれるという状況が常態化しています。

また、高度な教育を受けた人材を受け入れる場がない、母子家庭で貧困から抜け出す隙がないなどの状況も、ワーキングプアの発生を助長する一因となっています。

キャリア形成が難しい

ワーキングプアが発生する原因、2つ目は、「キャリア形成が困難」ということです。

正社員の場合、一般的に入社時から研修などによる教育を受け、専門知識を身につけることが比較的容易となっています。こうした人材は、年を経るにつれ順調にキャリアアップし、総じて高い市場価値を得るチャンスが増えます。

しかし、派遣社員などの非正規雇用では、こうした恩恵がなかなか受けられません。専門的な知識を身につける機会が少なく、キャリアアップも困難なため、年齢を重ねても貧困から抜け出しにくくなってしまいます。

労働に対する価値観の多様化

「労働者側の価値観の変化」もまた、ワーキングプア発生の原因と言えるでしょう。

これまでの労働観では、正社員として新卒入社した会社で、定年まで勤めあげるというのが常識でした。また、普通の暮らしを送るにはある程度の水準の収入が不可欠というのも、ほとんどの人に共通する認識でした。

しかし現在では、「好きなことをして生きたい」「生活のために無理して働きたくない」といった考えを持つ人が増えています。その結果、あえて正社員の道を選ばないという、「自発的なワーキングプア」が発生する状況も生まれています。

非正規雇用の形態が増えた

ワーキングプア発生の大きな原因として、「非正規雇用の増加」も挙げられます。

1990年代以降、進行する経済のグローバル化に対応すべく、労働市場の規制緩和が進められました。その一環として職業紹介事業が自由化された結果、派遣業者などが増加し、それがパートやアルバイト等の非正規雇用を大量に生むという現象をもたらします。

また、この時期は丁度日本経済が長期停滞に突入した頃で、リストラなどで非正規雇用にならざるを得ない人が続出したことも、ワーキングプア増加の要因となっています。

デフレで賃金水準が低下した

デフレによって賃金水準が下がったことも、ワーキングプア発生の原因の1つとなっています。

1990年代の頭にバブル経済が崩壊して以降、日本経済は一気にデフレ(物価が持続的に下落する現象)が進行しました。これは労働者の賃金水準にも影響を及ぼし、正規雇用者ですらなかなか給料が上がらないという状況が一般化します。その結果、正社員であってもワーキングプアに陥ってしまう層が続出しました。

この現象の影響は、現在に至るまで一貫して尾を引いています。

無期転換ルールの開始

無期転換ルールの開始と、それに伴う「雇い止め」の発生も、ワーキングプア増加の原因として挙げられます。

このルールは、反復更新による有期労働契約が通算で5年を超えると、労働者の申請で無期労働契約に転換できるという内容で、2018年の4月から開始されました。ところが、申請の増加を嫌った企業により、ルールの開始前に労働契約が打ち切られるケースが続出します。

いわゆる「雇い止め」と呼ばれる現象ですが、これにより、ワーキングプアからの脱却が一層難しくなった側面があります。

対策

上でも述べたように、国内におけるワーキングプアの問題は、現在進行形で続いています。では、この問題を解決するには、どういった対策を講じればよいのでしょうか。ここからは、ワーキングプアを減らすための取り組みとして考えられるものを、いくつか挙げて見ていきましょう。

経済的な援助

ワーキングプアを減らすための対策としては、まず第一に、「経済援助の実施」が挙げられます。

ワーキングプアの状況にある人は、多くが健康面に問題がなく、フルタイムで働けるコンディションにあります。にもかかわらず、貧困に陥るという状況は、社会の福祉機能が正常でないという見方が可能です。

本来労働者のセーフティーネットとして、「最低賃金」が各都道府県で定められていますが、現在の制度は十分とは言えません。同様のセーフティーネットとして「生活保護」も挙げられますが、こちらも財政難などの事情から、十分機能しているとは言い難い状況にあります。

このような経済援助を本来の形でしっかり行い、経済的に自立できる足場が与えられれば、ワーキングプアは減少していくと考えられます。

就労支援

ワーキングプアの対策、2点目に挙げるのは、「就労支援」です。働く意思や能力はあっても、なかなか仕事が見つけられないという人は大勢いますが、それらの層のサポートをする取り組みが重要になります。

現在のところ、ハローワークによる労働者への就労支援が、さまざまな形で行われています。具体的には、書類作成・面接の指導やセミナーの開催、フリーター向け窓口、若者向け窓口の設置などですが、こうしたものの一層の有効活用が求められます。

さらに、「職業訓練の拡充」も欠かせません。非正規雇用としての境遇が長い人は、きちんとしたビジネススキルや専門知識を身につける機会を逃したケースも多くなっています。こうした人に対する訓練の場を設けることで、収入を増やしてワーキングプアから脱却できるチャンスが広がります。

介護・子育てへの支援

「介護や子育てに対する支援」もまた、ワーキングプア抑制の対策として重要でしょう。

「働きたくてもなかなか働けない」という状況にいる人は大勢いますが、とりわけ介護や子育ての必要がある世帯の場合、そうした事態に陥りやすくなっています。働ける時間が限られることや、子どもを預ける場所が見つからないといった事情によるものですが、これらはさまざまなサポート体制を整えることで、ある程度解消することができます。たとえば、介護施設や保育園の拡充や、介護・保育スタッフの増員といった取り組みが考えられます。

育児世帯のワーキングプア化は、子供の教育機会の減少につながり、さらなるワーキングプアを生む土壌となっています。そのため、特にひとり親世帯に対する制度の拡充が求められています。

ベーシックインカム

ワーキングプアを減らすための対策、最後に挙げるのは、「ベーシックインカムの導入」です。

「ベーシックインカム」とは、政府が全ての国民に対し、毎月生活するのに最低限必要な現金を支給するという制度のことです。生活保護などとは違い、審査や請求の必要がないため、この制度を導入することで、ワーキングプアの状況にある人も経済的に自立しやすくなると考えられています。

ただし、この「ベーシックインカム」は、いまだに理論の段階でしかありません。試験的な導入は、いくつかの国や地域で行われており、一定の成果を挙げた例もありますが、いずれも全面的な導入には至っていない状況です。また、導入によって国民の労働意欲が減退したり、膨大な財源が必要になるなどの懸念もあることから、実現の可能性は高くないと見られています。

ワーキングプアとは?原因と対策10選

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