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ビジネス知識

知っておいて損はない!「下請法」とは?

知っておいて損はない!「下請法」とは?

監修者

よつば総合法律事務所千葉事務所 弁護士 辻佐和子

よつば総合法律事務所千葉事務所

弁護士 辻佐和子

よつば総合法律事務所の弁護士の辻佐和子と申します。日常生活の気になるあれこれを法律の観点からわかりやすく解説します。

下請法とは

昨年(2016年)、50年ぶりの見直しがニュースとなった下請法。1956年(昭和31)に独占禁止法の特別法として制定された法律で、正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といいます。下請取引を公正化させ、下請事業者の利益を保護することで経済の健全な発達に寄与することを目的としている法律です。
下請事業者に対する下請代金の支払いの遅延や不当な値引きといった、親事業者(発注者)による優越的地位の濫用行為を禁止することで、親事業者と下請事業者との取引が公正なものとなるようにしています。公正取引委員会が所管し、中小企業庁と連携して運用しています。

下請法は、発注者となる親事業者に、発注書面を交付する義務、支払期日を定める義務、遅延利息を支払う義務、そして取引に関する書類を作成・保管する義務を課しています。また、成果物の受領拒否や下請代金の減額、支払延期、不当返品や買いたたきといった11項目に及ぶ禁止行為を定めています。
親事業者がこれらの規定に違反したと考えられる場合には、公正取引委員会による調査が行われ、違反が認められれば勧告や指導が行われます。法人や法人の代表者などに50万円以下の罰金が科せられるケースもあります。

下請法成立の背景と変遷

朝鮮戦争の停戦が模索され始めた1952年頃から、日本ではいわゆる「朝鮮特需」が終焉を迎え、不況の波が押し寄せてきました。大企業では、不況を乗り切るための合理化政策が次々と打ち出され、そのしわ寄せは中小企業へと向かいます。低額な賃金、過酷な労働条件などを押し付けられることの多かった中小の下請け企業は、存続の危機に瀕しました。1947年に制定された独占禁止法によって、大事業者による、その優越的な地位を濫用した私的独占や不当な取引制限などは禁止されていましたが、下請け取引に関しては適用が難しく、野放しの状態でした。

このような状況の中、中小企業団体から下請企業擁護の要請が強く打ち出され、1956年に下請法が制定されました。当初は物品の製造や修理といったハード面の取引が対象でしたが、時代の変遷とともに社会のソフト化・サービス化が進み、2003年(平成15年)の法改正にて、ソフト制作やサービス事業などが規制対象の取引として追加されました。

下請法の適用対象

下請法の適用があるかどうかは、「取引の種類」と「資本金区分」の2つの基準によって判断されます。

下請法が適用される取引の種類

下請法の対象になる取引の種類には、次の4つがあります。

1.製造委託

親事業者が下請事業者に対し、規格や品質、形状、などを細かく指定して、物品の製造や加工を委託する取引契約のことをいいます。この「物品」は動産を意味していて、家屋などの不動産は含まれません。

2.修理委託

親事業者が下請事業者に対し、業務として請け負った物品の修理や自社で使用する物品の修理の全部又は一部を委託する取引契約のことをいいます。

3.情報成果物作成委託

コンピュータープログラムやソフトウェア、映画、放送番組、映像、音声といったコンテンツ、文字・図形などの各種デザインなど情報成果物の提供・作成を行う親事業者が、下請事業者に対しその作成作業の全部又は一部を委託する取引契約のことをいいます。

4.役務提供委託

物品の運送や倉庫における保管、情報処理などの役務(サービス)の提供を請け負った親事業者が、その役務の全部または一部を下請事業者に対して委託する取引契約のことをいいます。
ただし、建設業法に規定される建設業を営む事業者が請け負う建設工事は、下請法の対象とはなりません。

資本金区分

また、親事業者と下請事業者の資本金額の関係によって、下請法が適用される取引が変わりますので注意が必要です。

・親事業者(資本金3億円超)と下請事業者(資本金3億円以下)、または親事業者(資本金1000万円超~3億円以下)と下請事業者(資本金1000万円以下)という関係の場合、上記取引の種類の1から4が適用対象となります(3、4についてはプログラムの作成、運送、物品の倉庫保管及び情報処理に係るものに限ります。)。

・親事業者(資本金5000万円超)と下請事業者(資本金5000万円以下)、または親事業者(資本金1000万円超~5000万円以下)と下請事業者(資本金1000万円以下)という関係の場合、上記取引の種類の3及び4の取引が対象となります(ただし、プログラムの作成、運送、物品の倉庫保管及び情報処理に係るものを除きます。)。

逆にいえば、これらの資本金区分に当たらない場合には、下請法の適用はありません。

親事業者の義務・禁止事項と罰則

親事業者の義務

下請法が適用される場合、親事業者には次の4つの義務が課せられます。

1.発注書面の交付義務

親事業者が下請事業者に発注する際には書面を作成して、下請事業者に渡す必要があります。また、書面の記載内容についても、親事業者および下請事業者の名称から委託契約した日付、委託内容、金額、支払条件に至るまで細かな規定があります。

2.支払期日を定める義務

支払期日を定めなければなりません。この支払期日は、契約した物品やサービスの受領日から起算して60日以内のできるだけ短い期間内に定めることが求められています。

3.遅延利息の支払義務

支払期日までに下請代金を支払わなかった場合、受領した日から起算して60日を経過した日から実際に支払をする日までの期間、その日数に応じて年率14.6%の遅延利息を支払う必要があります。

4.取引に関する書類の作成・保存義務

取引に関する記録を書類として作成し、2年間保存する必要があります。また、作成する書類には、事業者名や契約日、取引内容、金額など、公正取引委員会規則に定められた内容を記載しなければなりません。

親事業者の禁止行為

また、下請法では、親事業者に対し下記11の項目を禁止しています。仮に、下請事業者の了解を得た上でこれらの行為を行ったとしても、それは違法になりますので注意が必要です。

1.受領拒否

下請事業者が納入してきた物品等を、下請事業者に責任がないのに受領を拒むことです。発注の取り消しや納期の延期で受領しないことも含まれます。

例:

下請業者:ご注文のソフトウェアが完成しましたので、ご確認をお願いします。

親事業者:急に社内方針が変わってしまってね、御社の採用は見送りたいんだ。

2.下請代金の支払遅延

物品等を受領した日から起算して60日以内の期間内で定めた支払期日までに、下請代金を全額支払わないことです。物品の検査などに時間がかかる場合であっても、支払期日までに代金を支払わなければ違法となります。    

例:

下請業者:すいません。先月末お支払予定の売掛金の入金が確認できないのですが・・・

親事業者:お客さんの入金が遅れているので、もう少し待ってもらえるかな。

3.下請代金の減額

発注時に決定した下請代金を、下請事業者に責任がないにもかかわらず発注後に減額することです。いかなる理由・名目があろうとも禁止されています。

例:

下請業者:それでは、ご契約の金額で請求書を発行させていただきます。

親事業者:今月、売上が厳しいから、もう少し値引きしてよ。

4.不当返品

下請事業者に責任がないにもかかわらず、下請事業者から納入された物品等を受領後に返品することです。なお、不良品があった場合には、受領後6か月以内に限って返品することができます。

例:

下請業者:納品した商品が送り返されてきましたが、何か不備がありましたか?

親事業者:いや、もうシーズン過ぎて売れないので、返品できるよね。

5.買いたたき

発注の際、通常支払われる対価に比べ著しく低い下請代金を不当に定めることです。「通常支払われる対価」とは、同種又は類似品等の市価のことです。

例:

下請業者:ご指定の原材料を使うとなると、これくらいの値段が妥当かと思います。他社の商品に比べても…

親事業者:値上げの話なら聞かないよ。

6.購入強制、利用強制

下請事業者に対し、親事業者の指定する製品(自社製品を含む)や原材料等を強制的に購入させたり、サービス等を強制的に下請事業者に利用させて対価を支払わせたりすることです。発注する物品の品質を改善するため等の正当な理由がある場合は違法となりません。

例:

下請業者:オンライン受注への切り替えは、どのようにすればよろしいのでしょうか?

親事業者:オリジナルの専用端末があるから、御社費用で導入してもらえるかな。

7.報復措置

下請事業者が親事業者の違反行為を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたことを理由として、取引を減らしたり停止したりするなど不利益な取扱いをすることです。

例:

下請業者:すみませんが、今回の件、公取に相談させていただきました。

親事業者:そうですか、それではもう御社との取引はしませんので。

8.有償支給原材料等の対価の早期決済

下請事業者の給付に必要な部品や原材料を親事業者が有償で支給する場合、下請事業者に責任がないのに、下請代金の支払期日より早い時期に、支払わせたり下請代金から控除(相殺)したりすることです。

例:

下請業者:原材料は支給いただけるのですよね?

親事業者:ええ、全てこちらで用意しますので、今週中に材料費を振り込んでください。

9.割引困難な手形の交付

下請代金を手形で支払う場合、支払期日までに一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付することです。
支払手形の手形期間が、繊維製品に係る下請取引においては90日、その他の下請取引においては120日を超える長期手形は、この「割引困難な手形」にあたるおそれがあるものと取り扱われています。

例:

下請業者:御社のお支払い条件はどのようになりますでしょうか?

親事業者:うちは月末〆翌月末日サイト5か月の手形払いなので、よろしく。

10.不当な経済上の利益の提供要請

下請事業者に対して、金銭やサービスなど経済上の利益を不当に提供させることです。協賛金の提供や従業員の派遣などがこれにあたります。

例:

下請業者:資材のご提供は月毎でよろしいでしょうか。

親事業者:一年分支給するので、そちらで保管場所を確保してもらえるかな。

11.不当なやり直し、不当な給付内容の変更

下請事業者に責任がないのに発注の取消や発注内容を変更する、または受領後にやり直しや追加作業をさせる場合に、下請事業者が作業にあたって負担する費用を親事業者が負担しないことです。

例:

下請業者:納品後の修正は勘弁してもらえませんか・・・

親事業者:納品させておいて悪いとは思うけど、部長の意向だからさ、タダで頼むよ。

勧告の公表と罰則

下請法に違反すると、親事業者は以下のような不利益を被ることになります。

1 指導

公正取引委員会による書面調査、もしくは下請事業者からの申し立てなどによって、義務違反や虚偽の報告、禁止行為といった違法行為が発見されることがあります。この違反の程度が勧告を行うほど重大でない場合には、指導がなされます。
指導を受けた親事業者は、違反行為の改善、下請事業者の不利益回復などの措置をとり、その結果を公正取引委員会に報告しなければなりません。

2 勧告とその公表

下請法違反によって下請事業者が受ける不利益が重大であったり、過去に繰り返し違反行為を行っている親事業者が再度違反を行ったりした場合には、公正取引委員会は親事業者に対して、違法行為をやめて原状回復させるとともに、再発防止措置を講じるよう勧告を行います(なお、勧告の対象は上記11項目の禁止行為に限られます。)。また、勧告が行われた場合、親事業者名を含む事件の概要が原則として公表されます。
さらに、公正取引委員会は、必要な場合は親事業者・下請事業者の事業所に立ち入って検査することもできます。

3 罰則

親事業者が次の違反行為を行った場合には、違反者個人と親事業者に罰金が科せられます。上限金額は50万円です。
・発注書面を交付しない
・取引に関する書類を作成・保管しない
・公正取引委員会から報告を求められたのにそれをしない、虚偽の報告をする
・公正取引委員会の立入検査を拒む、妨害する、避ける

知っておいて損はない!「下請法」とは?

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