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監修記事

産休の基本14選(条件や期間、給与、退職など)

条件や期間、給与、退職など産休の基本

監修者

弁護士:村岡つばさ(よつば総合法律事務所千葉事務所)

よつば総合法律事務所千葉事務所

弁護士 村岡つばさ

よつば総合法律事務所の弁護士の村岡と申します。日常生活や会社を運営する中で気になる法律の問題を分かりやすく解説します。

産休の基本

「産休」とは出産のために休暇を取得することを意味します。産休という言葉自体を知らない方は少ないと思いますが、産休を取得した場合、具体的にどうなるかという点については、ご存じない方も多いのではないでしょうか。

ここでは、産休を取得する条件や、給与は会社から支払われるのか、いつからいつまで産休を取得できるのか、会社から退職を勧められた場合には辞めなければならないのか、といった産休の基本事項について紹介していきます。

産休とは

産休の正式名称は、「産前産後休業」です。これは、女性労働者が出産と仕事を両立できるように法律(労働基準法)で定められた特別な休暇制度です。出産後の育児休業は男性にも取得が認められていますが、産休は、女性労働者にのみ認められています。

詳しくは後述しますが、「産前」「産後」休業という名前のとおり、産休は、出産する前と出産した後の両方に取得することができます。

産休を取得できる期間

産休を取得できる期間

産休には「出産前の産休:産前休業」と「出産後の産休:産後休業」の2種類があります。産前休業は出産予定日から遡って6週間、産後休業は出産後8週間、それぞれ取得することが可能です。
また、多胎妊娠と呼ばれる双子や三つ子などの出産の場合には、出産予定日の14週間前から産前休業を取得することが可能です。

ただし、出産する前の休業(産前休業)は、必ず休まなければいけないものではなく、「労働者の請求」があってはじめて、産前休業を取得できます。そのため、「もっと仕事をしていたい」「産休手当ではなく、お給料をしっかりと貰いたい」などの理由から、産前休業を取得せず、出産ギリギリまで仕事を続けることは可能です。

会社としても、労働者の請求がない限り、産前休業を取得させる「義務」まではありませんが、産前休業の制度を案内するとともに、体調面に配慮するといった対応は必要でしょう。なお、後述のとおり、労働者が産前休業の取得を請求したにも関わらず、会社側が産前休業の取得時期を遅らせたり、産前休業の取得自体を拒むことはできません。

産前休業とは異なり、出産した後の休業(産後休業)は、労働者本人の意向にかかわらず、必ず取得させなければならない(=働いてはいけない)こととされています。
ただし、出産後6週間が過ぎて以降は、出産した労働者の希望があれば、医師が問題ないと認めた業務について仕事を行うことが可能です。つまり、出産後6週間は必ず休業する必要がありますが、残りの2週間は仕事に復帰することも可能となります。

産休を取得できない会社はない・会社は産休を拒否できない

産休を取得できない会社はない・会社は産休を拒否できない

上記の内容は労働基準法第65条に規定されており、妊娠した女性労働者は、産休を取得する「権利」があります。労働者から産休の取得を希望された場合、「人手が不足するから」や「業務が滞るから」といった理由を含め、いかなる理由があっても、会社側が産休の取得を拒否することはできません。

また、慶弔休暇(身内に不幸があった場合の休暇)や、結婚休暇など、会社が福利厚生的に定める休暇制度とは異なり、産休は労働者の法律上の権利です。そのため、社内で制度が定められていなかったとしても、法律により権利が発生することとなるため、「産休制度がない」会社は存在しないこととなります。
たとえ労働者が1人しかいない場合でも、その女性が産休を希望した場合には、会社は産休を与えなければなりません。小規模な法律事務所では、代表弁護士1名、労働者(事務)が1名ということも珍しくないため、労働者の産休取得により、新たに人を雇い入れることもあります。

正社員だけでなく契約社員やアルバイトも取得できる

正社員だけでなく契約社員やアルバイトも取得できる

「正社員以外は産休を取得できない」と思われている方も多いと思われますが、産休は、雇用の形態に関係なく取得することができます。
そのため、契約社員やアルバイトといった雇用形態の女性労働者でも、産休を取得することが可能です。
ただし、産休を実際に取得する時点で、その会社で働いていることが前提として必要であるため、産休取得日より前に契約期間が満了となり、退職となるような場合には、産休を取得できないこととなります(ただし、後述するとおり、産休の取得を理由に契約更新を拒否することは認められません。)。

産休取得を理由に解雇することはできない

産休取得を理由に解雇することはできない

妊娠した女性労働者に対する嫌がらせは、マタハラ(マタニティハラスメント)などと呼ばれますが、特に近年、このマタハラが大きな社会問題となっています。

法律は、妊娠した女性労働者を保護するため、様々な規制を設けています。例えば、労基法19条1項では、産休期間中+産休後30日間は、その女性労働者を解雇することを禁止しています。また、雇用機会均等法9条3項では、産休を取得したことを理由とし、労働者を不利に取り扱うことを禁止しています。例えば、産休取得を理由に給与や役職を引き下げる、賞与の金額を下げるといった行為は、基本的に禁止されることとなります。

健康管理のための必要な措置を講じる必要がある

妊娠した女性労働者保護の観点から、会社は、その女性労働者の健康を管理・保持するために必要な措置を講じる義務があります。

例えば、その女性労働者が保健指導・健康診査を受けるために必要な時間を確保させる必要があります。具体的な保健指導・健康検査の頻度(回数)は、妊娠週に応じて下記のとおり定められています。

・妊娠23週まで……4週間に1回

・妊娠24週から35週まで……2週間に1回

・妊娠36週から出産まで……1週間に1回

この保健指導・健康検査の時間につき、給与を支払わなければならない義務まではないため、当該時間分が欠勤扱いとなり、給与が減額となる可能性はあります。ただ、実際には有給休暇の範囲で対応することや、欠勤としては処理しないというケースが多い印象です。

妊娠中の残業などを制限できる

妊娠した女性労働者の健康保持の観点から、残業・夜間の労働についても規制が設けられています。

その女性労働者からの要望があった場合、会社は、残業を行わせることができなくなり、また、夜間(午後10時から午前5時まで)に勤務させることができなくなります。

また、保健指導・健康検査などで医師から指導があった場合、その指導事項を守ることができるように、会社は、勤務時間を短くしたり、作業内容を軽いものに変更するなど、必要な措置を講じなければなりません。

産休中の給与が出ないかわりに出産手当金を受け取ることができる

特別な取り決めをしていない限り、産休中の女性労働者に対して、会社が給与を支払う義務まではありません。
そのため、産休中の給与は無給とする会社が大半です。実際に働けていない以上、このような処理はやむを得ないかと思います。

ただし、産休期間中は、その女性労働者が加入している健康保険から、一定額の出産手当金が支給されます。そのため、生活のために無理に働くことなく、産休を取得することが可能となっています。

無給になるかわりにもらえる出産手当金

産休手当早見表

出産手当金は、その女性労働者が実際に支給を受けていた給与をもとに、基準となる日額を算定し、この日額の2/3が支給されます。なお、ここにいう給与には、基本給だけでなく、諸手当、残業代、賞与などの支給金額も含まれます。

基準となる日額が6667円(標準報酬月額を30万円と想定)として、産前休業6週間と産後休業の8週間を全て産休として取得した場合、「98日(計14週)×6667円」で約65万3366円という計算になります。なお、多胎妊娠の場合には産前休業の期間が延びるため、貰える出産手当金も多くなります。

ただし、会社から給与が支給されている場合、支給された給与分を差し引いて出産手当金が支給されます。支給された給与の方が出産手当金より高額な場合には、そもそも出産手当金は支給されないこととなります。
なお、会社から支給される給与は、所得税等の税金がかかるため、税金額を差し引いた残りが手取額として支給されますが、出産手当金は非課税のため、税金は差し引かれず、満額そのまま支払われることとなります。

出産手当金の申請と給付のタイミング

出産手当金は、出産日前42日から出産後56日の範囲内(計14週/98日)で会社を休んだ期間が対象となります。出産予定日より遅れて出産した場合には、遅れた期間についても支給の対象となるため、例えば予定日より3週間遅れて出産した場合には、42日+21日(遅れた期間)+56日(出産後)=119日の期間が対象となります。

出産手当金の申請に当たっては、申請書に、会社・医師の証明をしてもらう必要があります。会社は欠勤した期間を、医師は出産日(又は出産予定日)を、それぞれ証明することとなります。出産手当金の申請自体は、欠勤した期間の証明と併せて、会社側で手続を行ってくれることが通常です。

産前・産後の休業を分けて申請することも可能ですが、手続の簡便さから、1回でまとめて申請する方が多いです。1回でまとめて申請を行う場合には、産後休業(8週間)が終了してから、会社を経由して申請することとなります。ただし、早く出産手当金を受給したい場合には、会社に依頼して、産前・産後の休業を分けて申請してもらう場合もあります。

申請してから実際に給付がなされるまでの期間は、一概には言えませんが、1~2か月程度の期間がかかるのが通常のようです。「申請すればすぐに貰える」という性質のものではないので、注意が必要です。

なお、出産手当金にも時効があることにも注意が必要です。健康保険法193条では、権利を行使できるときから2年を経過すると、時効により消滅すると定められています。出産手当金に関しては、労務につかなかった日ごとに、その翌日から2年で時効にかかるとされているます。「出産日から2年」ではないので、ご注意ください。

個人事業主は出産手当金を受給できない

これまで見てきたのは、あくまで会社で「労働者」として勤務している方のお話です。
出産手当金は、加入している「健康保険」から支払われるものであり、「国民健康保険」からは支払われません。そのため、個人事業主として仕事をしている方は、出産手当金を受け取ることはできません。
ただし、個人事業主の方でも、下で述べる出産育児一時金を受け取ることはできます。

出産育児一時金

出産育児一時金

出産手当金以外にも、さまざまな経済的支援の制度が設けられています。

出産育児一時金とは、出産した子供1人につき42万円が支給される制度です。そのため双子であれば84万円、もし三つ子であれば126万円が支給されます。出産手当金とは異なり、無職の方でも支給を受けることができます。
なお、非課税であるという点は、出産手当金と同様です。

※出産する医療機関が「産科医療保障制度」に加入していない場合や、妊娠22週目未満で出産した場合には、40万4000円に減額されます。

社会保険料の支払いが免除される

産休期間中は、その対象となる女性労働者が申請を行うことにより、厚生年金、健康保険料といった社会保険料の支払につき、免除を受けることができます。

あくまでも、労働者の「申請」が必要であるため、自動的にこれらの社会保険料が免除されるわけではありません。ただし、この申請を行うと、労働者だけでなく、会社が負担する社会保険料も免除となるため、会社が申請手続を行うことが通常です。

少し注意が必要なのは、産休を取得することが可能な期間であっても、実際に働いている場合には、社会保険料の免除を受けることができない点です。しかも、社会保険料は月単位で発生するため、勤務日が1日だけだったとしても、1か月分の社会保険料が発生することとなります。

住民税の支払いは免除されない

上記のとおり、社会保険料の支払は免除となりますし、出産手当金は非課税であるため、所得税もかかりませんが、住民税の支払いは免除されません。

住民税は、前年の所得に対して課税され、その翌年(今年)に支払いを行うものであるため、産休をしたという事実は考慮されません。そのため、産休の前年に所得がある場合には、産休中であっても、住民税を支払うことが必要となります。

住民税は、毎月支給される給与から天引され、会社を経由して支払われることが通常です(特別徴収といいます)が、産休期間中は支給する給与がないのが通常であるため、このような天引きを行うことができません。そのため、 ①産休前又は産休後に一括で住民税を会社に支払う(天引きする)、②毎月住民税を会社に振り込み、会社から支払ってもらう、③住民税の支払方法を変更し、会社経由でなく、直接労働者が支払う(普通徴収といいます)といった方法により、住民税を収めることとなります。支払方法につき会社と話し合う必要はありますが、実際には、①の方法を選択することが多いでしょう。