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地産地消とは?代表的な4つの取り組みとメリット・デメリット12選
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国内の農業や食を取り巻く環境が厳しさを増す中で、最近「地産地消」という言葉を聞く機会が多くなりました。生産者と消費者の双方にとって利点が多いと言われる「地産地消」ですが、そもそもどういった取り組みなのでしょうか。実はまだ、あまり詳しい意味を知らないという人も少なくないと思います。
本記事では、「地産地消」の意味や代表的な取り組み、主なメリットと、その反対のデメリットについて紹介していきますので、理解の参考にしてみてください。
地産地消の意味とは?
「地産地消」とは、「ある地域で生産された農林水産物を、その同じ地域内で消費すること」を意味する言葉です。「地場生産-地場消費」を略した言葉で、「ちさんちしょう」と読みます。直売所での販売や、生産業者自身による加工など、近年話題となっている「6次産業化」にもつながる取り組みになります。
この言葉が登場したのは、昭和56年(1981年)で、農林水産省が主導した「地域内食生活向上対策事業」の中で使われました。こちらの事業は、地域特性を活かした食生活の構築と農村部の健康増進が目的でしたが、近年は消費者の食に対する安全志向の高まりや、生産者による販売多様化の取り組みの活発化などもあり、生産者と消費者を直接つなぐ「地産地消」への期待が一層高まっています。
地産地消への取り組み
直売所運営
地産地消への取り組みにはさまざまな形があります。最も代表的なのが、「農産物直売所の運営」でしょう。文字通り、生産者が作った農産物を直接消費者に売る場所のことですが、近年は値段の安さに加え、「ほかでは手に入らない品が買える」というプレミア感もあって、人気が高まっています。
「直売所」には、個人で運営するものと、グループや企業が運営するものの2種類があります。前者は圃場の前などに設置する比較的小規模なもので、無人の場合も多くなっています。後者はさらに、「農家がグループを作って運営するもの」「JAなど企業や生産者グループが運営元となるもの」「スーパーなどの一角で個人生産者の農産物を販売するもの」「道の駅などで農産物や加工品等を販売するもの」などの種類に分けられます。
学校給食への供給
地産地消への取り組み、2つ目の形は、「学校給食などへの供給」です。学校給食用の食材は、指定の業者が納入するのが一般的ですが、近年は地場農産物の利用が積極的に進められています。
地場農産物の給食への供給は、食材の安全性の確保に加えて、どういった農産物が地元で作られているのか、また、旬の野菜がどういったものかを示すなど、子供たちの食育にもつなげる意図があります。さらに、単に食材を提供するだけではなく、種まきや収穫なども子供たちと一緒に行うことにより、より地元食材への愛着を高めてもらおうという取り組みなども行われています。
また、このほかにも病院や介護施設などに地元産の農産物を提供している例もあります。
観光資源としての利用
「地元の農産物を観光資源として用いる」というのも、地産地消の取り組みの1つです。各地で作られる農産物には、それぞれ特性がありますが、そうしたユニークな部分を観光に活かそうというのが、こちらの取り組みの狙いになります。
例えば、道の駅や宿泊施設での農産物の販売や、農業体験ができる農園の整備といった活動が、これにあたります。こうした活動を通じて、地域を訪れた観光客に地元の食材や食文化をアピールできるので、観光地としての付加価値も高められます。実際に、近年はインバウンド客に向けた農業体験で人を呼び込むことに成功している農園なども多く、日本政府も観光政策として「農泊(農村に滞在する旅行)」を積極的に推進しています。
加工品開発
地産地消の取り組み、4つ目に紹介するのは、「加工品の開発」です。
地域の独自性にこだわった加工品の開発・販売には、生の農産物販売にはないメリットがあります。それは、「仕入れ値に対して価格を高く設定できる」という点です。製造のための人件費等はかかりますが、比較的利益が出やすいというビジネス面でのうまみがあります。
特にスイーツ類は人気が高く、ブランドを確立して注目を集める地域や生産者なども多く登場しています。例えばケーキでは、それぞれの地域の特産食材を使った「地産地消ケーキ」と呼ばれる名産品が各地に存在しています。いちごが名物であれば、いちごのショートケーキ、乳製品が特産品であれば、生クリームをたっぷり使ったケーキといった具合です。
メリット・デメリット
「地産地消」にはさまざまなメリットがあるとして、現在盛んに推奨されています。ただ、メリットが多いのは事実ですが、その一方でいくつかのデメリットの存在も指摘されています。以下の項目では、「地産地消」のメリット・デメリットの双方について、それぞれ主なものを挙げて紹介していきましょう。
メリット
地域生産物の消費拡大
地産地消のメリット、まず1つ目は、「地域生産物の消費が拡大する」ということです。
地産地消は、その土地ならではの食材の魅力を消費者にアピールしたり、安全性を認識してもらうことで、リピーターを生む効果があります。「おいしく安全な食べ物が近くで手に入る」という意識が広まることにより、ファンが定着するわけです。これにより、地域の生産物の消費が拡大するだけでなく、ひいては国産農林水産物の消費拡大にもつなげることができます。
食の安全な取引
続いての地産地消のメリットは、「食の安全な取引が実現できる」ということです。
日常の食べものの多くを輸入に頼っている現在の日本では、「食の安全」の確保が大きな課題となっています。輸入品ではどんな生産過程を辿っているのか分かりづらいため、安全性への信頼は、今ひとつ置きづらいと言わざるを得ません。それに対し、地域で作った農産物を地域で消費するやり方なら、生産の過程をチェックすることが容易ですから、より安全な食べ物を入手できるようになります。
食文化の理解
地産地消のメリット、3点目に挙げるのは、「食文化への理解が進む」ということです。
日本では、古来から地域ごとに特色ある食文化が形成されてきましたが、近年では食生活の多様化に伴って、郷土料理や伝統料理などの食文化が次世代に継承されにくい状況となっています。この状況の改善には、住民が地域の食材等の特徴を良く知ることが欠かせませんが、地元の農産物を積極的に消費する地産地消なら、それに大きく貢献することができます。
地域活性化
「地域の活性化につながる」ということも、地産地消のメリットの1つです。
先にも触れた通り、地産地消では、直売所を通じた販売を行うケースが多くなっています。この場所は、生産者に経済効果をもたらすだけでなく、買い物に来た消費者同士や、あるいは消費者と生産者との交流を生む機能も持っています。そうした交流の積み重ねは、やがて自然なにぎわいや活気となって広い範囲に伝わります。特にこの効果は、人口減少に悩む山間部などで大きく発揮されます。
生産者と消費者の繋がりを作る
地産地消のメリット、5つ目に挙げるのは、「生産者と消費者の繋がりができる」ということです。
先にも述べた通り、現在は消費者の「食の安全」に対する意識が強まっています。食の安全への信頼は、生産プロセスの可視化なしには得られませんが、その点生産者と消費者の間に直接の繋がりができることは、食べものの成り立ちを知る上で大きな意義を持ちます。また、両者が繋がることで、お互いが対等の立場として助け合う「相互扶助の精神」もはぐくむことができます。
流通経費を削減することができる
続いての地産地消のメリットは、「流通経費を削減できる」ということです。
流通経費が食品のコスト全体に占める割合は、かなり高くなっています。例えばキャベツの場合、小売り・卸経費や集出荷経費などの流通経費は、総コストの5割ほどにのぼります(青果物平均では約6割)。米の場合でも、総コストの約3割が流通経費です。
地産地消では、直売などの方法でこうした流通にかかるコストを削減できますから、その分価格を安く抑えることも可能となります。
生産者が直接販売することができる
地産地消のメリット、続いて挙げるのは、「生産者が直接販売できる」という点です。
従来の農産物の流通の仕組みと言えば、農家から消費者に届くまでに、出荷団体(JAなど)、卸売市場、仲卸業者、小売業者などの手を経るというのが一般的でした。しかし、こうしたやり方では、中間マージンが高くついたり、生産者に価格決定権がないなどのデメリットが生じます。
一方、地産地消のやり方であれば、農家自身が直接販売することで自由に価格を決めることも可能ですし、さらに顧客ニーズも掴みやすくなります。
農業技術が地域に根付き、農業技術の保全になる
地産地消のメリット、最後に挙げるのは、「農業技術の保全が可能」という点です。
現在の日本の農業は、高齢化と後継者不足の問題に直面しています。農林水産省の2016年の調査によると、日本の農業従事者の平均年齢は66.8歳で、耕作放棄地も増加していることから、このままでは農業技術や経験が次世代に受け継がれないという懸念が生じています。
これに対し、地産地消の取り組みで地域の農家を身近に感じる人が増えれば、新しく農業を始める人も増え、ひいては農業技術や農地の保全にもつながると期待されています。
デメリット
売上が上がらない場合も
ここからは地産地消のデメリットですが、まず「安定した売上があるとは限らない」という点が挙げられます。
上記のように、地産地消は地元で生産物を安く販売するのが特徴ですが、これだと思うように売上が上がらず、利益が確保できないケースもあります。生産者にとっては、それより都市部で高値で販売し、多くの人に買ってもらった方が、ビジネスとしてのうまみが大きい場合があるのも事実です。
また、直売所での販売は、農家自身が出荷や販売にかかるコストを負担するということでもあります。売上が安定していれば、これらのコストは十分回収可能ですが、そうではない場合、かなりの負担となってのしかかってきます。さらに、売れ残った品物を再出荷するというわけにもいかないので、その都度ロスが生じてしまうリスクも抱えることになります。
品ぞろえに偏りが生じやすい
地産地消のデメリット、2点目は、「品ぞろえに偏りが出やすい」ということです。
農家の数と人口のバランスは、地域ごとに異なります。農家の数が比較的多く、それに対し人口が少ない地域では、需要が不足するので必然的に供給過多が生じやすくなります。一方、反対に農家が少なく人口が多い地域では、需要が供給をオーバーして品不足が起こりやすくなります。
また、この問題は農産物の種類によっても起こります。日常的に消費が多い野菜などは、供給が少ないとすぐに売り切れてしまうでしょう。そもそも地域によって収穫できる農産物の種類自体が異なるので、どうしても品ぞろえは偏りやすくなります。
こうした問題を解決するには、現行の流通システムと、地産地消とのバランスをうまく取ることが必要となってきます。
販売に関する手間やコストが必要になる
地産地消のデメリット、3つ目に紹介するのは、「出荷や販売に伴い手間やコストが必要になる」ということです。
個人で直売所を設置するとなると、まず場所を確保しなくてはなりません。自宅の敷地内に作るのであれば、届出なども不要で済みますが、圃場に設ける場合、規模によっては許可や手続きが必要になります。さらに、営業を開始するにあたっては、保健所への相談や申請書の提出、許可証の交付などが必要なケースがあります。
また、道の駅などに置かせてもらうとなると、店員を配置する必要も出てきますが、そのためには組合への入会や、販売手数料も求められることになります。そうなると、原価に加えて販売手数料や送料を価格に反映させる必要も出てきます。
品質管理や販売促進の能力が必要
地産地消のデメリット、最後に挙げるのは、「品質管理や販売促進の能力が求められる」ということです。
地産地消には、「消費者のニーズを直接掴みやすい」という特徴があると述べましたが、これはニーズを反映した生産がしやすいというメリットを生む反面、その実現には適切な品質管理能力が必須になるという負担も生みます。また、地産地消では安売りによる価格競争が起きやすいのですが、これを避けるために、特産品などで他商品と差別化することが必要になってきます。これには言うまでもなく、ある程度の販売促進能力が必須ですが、このような能力は誰でもすぐ身に付くわけではありません。
こうしたように、地産地消ではある程度のノウハウや知識などがないと、うまくいかないケースも多くなっています。
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