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最終更新日:2021-03-10

コロナ禍で苦しむ事業者を士業クラウドファンディングで支援

  • 2021/03/09
  • 2021/03/10
コロナ禍で苦しむ事業者を士業クラウドファンディングで支援

新型コロナウイルスの影響を受け、多くの事業者に経営の危機が迫るなか、事業存続に向けた資金調達手法として、クラウドファンディングが盛り上がりを見せている。その牽引役のひとつに、「士業クラウドファンディング支援協会」(略称・SCFS協会)がある。税理士業務とクラウドファンディングの接点やメリットはどんなところにあるのだろうか。代表の伊東修平税理士に聞いてみた。

士業クラウドファンディング支援協会
黒船イノベーションズ(株)代表 伊東修平税理士

きっかけは起業相談での悔しい思い

中小企業の支援について、すでにクラウドファンディングは有効な手段となっているが、税理士業界では馴染みが少ない分野でもある。インターネットを通じて資金を調達し、その資金をもとにさまざまな事業を行うのがクラウドファンディング。

そこに魅力を感じた伊東修平税理士(東京・板橋区)が、一人でも多くの起業家の夢の実現を目指し運営しているのが「士業クラウドファンディング支援協会」。

今回のコロナの影響を受け、公的支援だけでは足りないと危機感を感じている事業者の増加を背景に、国内クラウドファンディング市場規模は確実に拡大路線にある。

伊東税理士がこの事業を始めたのは、創業相談を多く受ける中である2人の創業希望者に出会ったのがきっかけという。確かな技術と面白いアイディアがあるにも関わらず、やむを得ない事情により資金調達ができなかったが、「もう少しお金を貯めてからチャレンジしてください」としか言えず、とても悔しい思いをしたことがバネになり、様々な手段を模索するなかで出会ったのが「クラウドファンディング」だった。ちなみに、同氏が経営するIT企業の「黒船イノベーションズ(株)」の経営理念である「誰もがチャレンジでき、失敗してもやり直せる社会を創る」は、まさにこの出会いに由来する。

クラウドファンディングで資金調達にメリット

政府の新型コロナウイルス対策関連の資金支援も発表されているが、こうした融資や補助金などと比べ、要件は問わず広く門戸が開かれているのがクラウドファンディングの最大の特長。「共感を集めることができれば、創業当初でも創業前でも資金調達が可能」(伊東氏)とメリットを語る。

一般的に、収益の上がらない社会貢献事業等は資金調達が難しいが、クラウドファンディングであれば共感をもとに資金が集まることから、収益の上がらない事業についても資金調達が可能。「売買型」や「寄付型」のクラウドファンディングは、出資者にとっては支援先の利益や将来性は二の次。返済も資金使途の制限もない。

さらに、クラウドファンディングは、SNS等インターネットを通じてファンを作っていく仕組みであるため、資金調達とプロモーションが同時に行え、プレスリリースも組み合わせて、日本全国に向けて情報発信できるなどのメリットもある。 都内板橋区に事務所を構える伊東氏の場合、地元密着型のビジネス展開を基本に置く。そのため、クラウドファンディングへの関わりもそのエリアが中心となる。同氏によると、「新型コロナウイルスの影響が顕在化した2020年4月単月でコロナ関連のクラウドファンディング支援実績は24社。多くは事業継続が目的で、内訳は飲食20社、福祉2社、化粧品と小売で2社。その後も相談件数は高止まりしている」という。資金調達額も100~300万円が中心で、従来は1社単独でクラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げ、1社でプロモーションを行っている例がほとんどだった。それが、新型コロナウイルスの流行後は、地域の複数の店舗が連携してひとつのプロジェクトを立ち上げる事例も目立ってきたという。

税理士にとって有効な武器になる理由とは

ではなぜ、士業(税理士)にとってクラウドファンディングは有効な武器になるのだろうか。クラウドファンディングに関わることで、まず、顧客の事業がより正しく理解できることから、融資の支援や顧問契約等のメインの商売につながることも非常に多い。とくに創業支援に力を入れている税理士においては、低価格の顧問料からスタートする例が多いが、クラウドファンディングの支援をすることにより、顧客の事業の販路を確保できて事業の成長が早まるため、顧問料を上げてもらいやすくなるという。創業支援とクラウドファンディングとは相性が良く、この分野に精通する税理士は少ないことからも、事務所の差別化につながる。

つまり、税理士にとって新たな収益源につながり、顧客満足度向上およびブランド力を向上させることが可能になり、何より新型コロナウイルスの影響を受けた事業者支援にもつながるといったといった面において、非常に有効な手段というわけだ。 「士業クラウドファンディング支援協会」のミッションは、税理士ら士業にクラウドファンディングのノウハウを提供し、士業を通じて一人でも多くの起業家の夢を実現していくことにある。そのため、同支援協会はクラウドファンディング業界大手の(株)キャンプファイヤーと業務提携を結び、顧客に追加の金銭負担をかけることなく支援が行えることが最大の特徴となっている。

顧客と向き合う覚悟があるかが成否のカギ

協会では、二つの提携方法により税理士らの入会を募っている。一つは案件紹介が中心の「業務提携」。月額会費は5,000円で紹介手数料は獲得報酬額の2%。事業に取り組むための簡易マニュアルが提供される。

もうひとつの「認定サポーター」は、月額会費30,000円で、紹介手数料は獲得報酬額の2%、もしくは成功時サポート報酬(支援金)5%を選ぶことができる。また、協会からの顧客紹介や協会認定ロゴマークも使用可能。このほか、より詳細な運営マニュアルや個別相談、クラウドファンディング相談への打ち合わせにも同席できる。

「単なる案件紹介ではなく、一回は税理士がお客様にクラウドファンディングを提案し、一緒に記事作成を行うことにより、プロジェクトサポートの実体験を積んで欲しい。そこまで深く関わることになれば、その後、顧問先になることも多い」(伊東氏)としている。

同協会では従来購入型クラウドファンディング「CAMPFIRE」1社のみを取り扱っていたが、2021年4月以降ReadyforやMotionGalleryなど他のプラットフォームとの提携が決まっている。また、購入型のみではなく、寄付型や株式投資型のプラットフォームとの提携も行う。これにより、事業者の資金調達の選択はもっと増えることとなる。

クラウドファンディングは、様々な団体・個人の新たな資金調達方法として定着しつつある。税理士にとっては、クラウドファンディングはゴールではなく、その後の顧問契約、経営支援までつなげられるかが勝負。どれだけ顧客と向き合う覚悟があるかが、成否のカギを握っていると言えそうだ。

士業クラウドファンディング支援協会のホームページ

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