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最終更新日:2021-06-11

クローズアップ保険税務|名義変更プランに内在する課題ともう一つのホワイトデー・ショック!!|当局、「介護保険金の受取人」を巡る節税スキームを問題視

  • 2021/06/11
クローズアップ保険税務|名義変更プランに内在する課題ともう一つのホワイトデー・ショック!!|当局、「介護保険金の受取人」を巡る節税スキームを問題視
(株)A・B・U・K・U(アブク)の鉄尾猛司代表取締役

いつ決着を見るのか不明な「節税保険」を巡る保険会社と課税庁側のバトル。実は今回の「低解約返戻金型定期保険」を活用した「名義変更プラン」のほかに、もう一つ大きなインパクトがある動きをご存じだろうか。税理士との関係が深く、新しい保険代理店の形を情報発信する(株)A・B・U・K・U(アブク)の鉄尾猛司代表取締役(写真)に解説してもらう。


ホワイトデー・ショックと言えば、「低解約返戻金型定期保険」を活用した名義変更プランへの規制が思い浮かぶと思いますが、実はこれ以外にも、国税庁が注意を払っている課題があり、4月28日に公表されたパブリック・コメントの改正案の概要にもその旨が記載されていることをご存知でしょうか。

さらに、「名義変更プラン」のインパクトがあまりに大きく、話題に取り上げられることが少なったので、それほど知られていないのですが、「もう1つのホワイトデー・ショック」がありました。

1.当初の見直し案で適用対象外だった組込型保険

漏れ伝わる所によると、今回の通達改正について、3月17日に国税庁より生命保険全社に対して説明会(拡大税制研究会)が設けられた際、国税庁から示された見直し案は「法人から個人への名義変更時の解約返戻金額が法人税基本通達9-3-5の2の取扱いによる資産計上額の70%未満である場合には、資産計上額により評価する」という内容でした。

しかし、説明会後、生命保険各社から国税庁に対し見直し案への意見出しが行われ、その結果、「払済保険に変更した後、個人契約への名義変更を行い、その後、復旧するという抜け道がある」と指摘され、これを防止する為の手立てがパブリック・コメントの改正案の概要に追加されました。実は、これ以外にも以下の内容が盛り込まれました。

「今回の見直しの対象は、法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける保険契約等に関する権利としていますが、法人税基本通達の他の取扱いにより保険料の一部を前払保険料に計上する「解約返戻率の低い定期保険等」及び「養老保険」などについては、保険商品の設計などを調査したうえで、見直しの要否を検討します」

ここで言う、「解約返戻率の低い定期保険等」とは、「組込型保険」も包含するのですが、なぜ、このような内容を盛り込む必要があったのでしょうか。

「組込型保険」とは、死亡保障と第三分野保障(介護、特定疾病等)を兼ねた保険であり、令和元年の通達改正において「組込型保険のうち、死亡保険金と第三分野保障の保険金額が同水準であり、かつ、保険期間が終身」の場合、税務取扱いについては、法人税基本通達9-3-5または9-3-5の2を適用するが、これ以外にも解約返戻金が養老保険等と類似した推移を示す為、法人税基本通達9-3-4(1)の取扱いに準じて、経理処理を行うことは差し支えないとされました。

このため、9-3-4(1)の適用を選択して経理処理すれば、保険料払込完了直前に解約返戻率の低い状態で法人契約を個人契約に名義変更したとしても、今回の通達改正の対象外となってしまいます。当然のことながら、保険料は全額資産計上するため、解約返戻率が低ければ低い程、従来の9-3-5の2による低解約返戻金型定期保険に比べ、名義変更時における譲渡損の効果を出せることになります。

実際、某生命保険会社で販売している「終身介護保障保険」に至っては、保険料の払込期間中は解約返戻金が無く、払込期間が終了すると相当額の解約返戻金が生じ、法人契約から個人契約への名義変更もできます。

2.もう一つのホワイトデー・ショック

名義変更プランで生命保険業界が騒然としていたのと同時期に、国税庁は生命保険業界に対して、別の税務取扱いについても殊の外問題視し見解を示しました。

それが、「“介護保険金受取人”問題」です。前述した「終身介護保障保険」でも同様の取扱いができるのですが、使い方によっては相続対策の租税回避行為として見なされます。

では、そもそも“介護保険金受取人”問題とは何でしょうか。

《① 介護保険金受取人と指定代理請求人について》

保険金不払い問題の発生や2006年に監督指針の中で被保険者本人を受取人とする保険契約において、保険金等の支払事由が発生し、被保険者が物理的に請求を行い得ない可能性が高い保険契約について、被保険者に代わりに速やかに保険金等の請求が行える体制が求められたこともあり、指定代理請求制度が整備されてきました。

これにより、現在では被保険者に代わり、あらかじめ指定された代理人が保険金、給付金等を請求できるようにするため、指定代理請求特約又は特則を保険契約に付加することが一般的になっています。また、所得税基本通達9-20にあるとおり、指定代理請求人が被保険者の配偶者若しくは直系血族又は生計を一にするその他の親族である場合、受け取った保険金、給付金等は非課税となります。

但し、指定代理請求人が請求し受取った保険金・給付金を残したまま被保険者が死亡した場合、これらはあくまで指定代理請求人が被保険者の代理人として受取ったに過ぎないので、相続財産として持ち戻しされ相続税が課税されます。

一方、介護保険金受取人特則の場合、指定代理請求特約又は特則と異なり、あらかじめ被保険者の同意を得て指定された介護保険金受取人が「介護保険金受取人固有の財産」として介護保険金を請求し受取る為、被保険者が介護保険金を残したまま死亡したとしても相続財産として持ち戻されることはありません。

《② 商品認可とその経緯について》

生命保険の新商品を創設する場合、金融庁より商品認可を取得するための審査を通過しなければなりません。当然のことながら、従来にない画期的な商品であればある程、審査のハードルは高くなりますから、「介護保険金受取人特則」の審査についても、その経緯が生命保険業界の中で論議の的になりました。

具体的な内容については、令和3年1月度の保険商品審査事例集(※1)で確認することができるのですが、実は、既に審査の過程において、被保険者以外の者を受取人とする必要性の是非やモラルリスクを排除し適切な取扱いを行う為の対応方法についての確認がされており、これに加え、「本特則の趣旨から逸脱した募集が行われることのないように態勢を整備すること」の重要性についても明言されていました。

それにも関わらず、介護保険金が「介護保険金受取人固有の財産」であるという利点を過度に活かした提案が散見されたため、税務当局から、税負担の回避に利用されているとの指摘を受ける結果となりました。

※1保険商品審査事例集優良な商品開発等に役立てるため、保険商品の認可審査の過程において、当局と保険会社との間で共有するに至った問題認識や商品開発における先進的な取組等について要約したものであり、募集上の留意点等を示したもの。

《令和3年1月度 https://www.fsa.go.jp/status/hoken_sinsajireishu/20210108/2101shinsajireishu.pdf

《③ 税務当局の見解について》

巷では「本特則を利用すれば、相続の持ち戻しはしなくて良い」、「ある意味、本特則はこの商品の特許である」等々の提案がされていたようです。

さすがに税務当局も見過ごすことができなかったのか、漏れ伝わる所によると、拡大税制研究会が開催される前の3月15日に各生命保険会社に対し、「介護保険金の受取人として被保険者以外の者を指定する際の税務取扱い」について税務当局からの見解が示され、翌々日の拡大税制研究会の席上においても、「名義変更プラン」に加え、「“介護保険金受取人”問題」について言及したそうです。

税務当局より示された見解の要旨は以下のように聞き及んでおります。

・所得税法第9条第1項第17号、所得税基本通達9-20において、被保険者の親族が受け取る保険金又は給付金は非課税であることを明確化している。

・かと言って、支払事由の偶発性が低く、被保険者が受けた損害にかかる実費相当額を超過する保険金が被保険者の親族に支払われる保険契約については、税負担の回避を目

的としているものと推測される。

よって、いくら通達の文言のみを機械的に読込み、その要件を満たしているからと言って、いかなる場合でも通達の適用が認められる訳ではなく、むしろ、これを非課税所得として取扱うことは、所得税法、所得税基本通達の趣旨を逸脱するものと言わざるを得ない。

・今後もこのような税負担の回避を目的とした保険契約の販売が散見される場合は、当該通達の存在意義が問われるため、このような誤解が生じないよう、適切な対応を取る

ように留意すること。

以上、今回の通達改正は法人税基本通達9-3-5の2以外に9-3-4(1)の適用を選択した場合の課題や介護保険金受取人問題という相続対策の租税回避行為の問題も同時並行に起きており、今後の経過を見守りたいと思います。

略歴

1961年 大阪府守口市生まれ。1991年にアリコジャパン(現:メットライフ生命)に入社、2005年の退社までにMDRT終身会員資格、MVP、ワールドワイド、エージェンシー大学など入賞多数。その後、大手乗合代理店の副社長として現場での販売はもとより、スキーム構築・マーケット開拓・会計事務所での研修講師を担当。 2015年11月、相続・事(医)業承継に資する保険代理店株式会社A・B・U・K・U事業を立ち上げる。生涯現場主義を謳い、講師として全国の会計事務所・弁護士事務所・司法書士事務所での研修会は年間100回を超え、士業や相続・事(医)業承継のスペシャリストを招いての研修会は年60回以上と自己研鑽にも手を緩めない。

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