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最終更新日:2021-03-10

税務署が中小企業の“国際取引”に目を光らせる

  • 2021/03/07
  • 2021/03/10
税務署が中小企業の“国際取引”に目を光らせる

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中小企業の移転価格調査が増えている。海外に子会社があれば、課税当局はチェックしており、会計事務所としては注意してサポートしておきたいところ。「知らない」では済まなくなってきている中小企業の移転価格調査、どんなところが見られているのだろうか。

馴染みがない税務署の「移転価格調査」とは

移転価格調査というと、大企業中心の調査であり、会計事務所のクライアントである中小企業にはほとんど関係がないと考えがちだ。しかし、現在では、大企業が移転価格調査で否認されるケースは減少しており、むしろ中小企業にその矛先が向いている。

国税庁発表の「移転価格調査」に関する「申告漏れ件数」及び「申告漏れ所得金額」の推移を見てみると、「申告漏れ所得金額」は平成17年をピークに減少傾向にある一方で、申告漏れ件数は増加傾向にある。そして、調査1件当たりの申告漏れ金額(=申告漏れ所得金額/申告漏れ件数)は、25年度は3億2千万円、26年度は7千4百万円、27年度は6千3百万円と減少しており、事案の小型化が顕著となっている。つまり、この数字から読み取れるのは、中小企業の移転価格調査件数が増えていることが想定されることだ。

ではなぜ、大企業から中小企業へシフトしているかというと、移転価格調査は、否認されると金額が大きいため、大企業は課税当局との連携や事前確認制度(APA)の利用を積極的に進めており、移転価格リスクに備えている一方、中小企業は、指導する専門家が少ないことや、そもそも経営者自身が移転価格税制に関してほとんど知識がないことが挙げられる。

税務署の移転価格調査というと馴染みがないかもしれないが、比較的規模の大きい税務署には、海外事案を担当する「国際税務専門官」が配置され、それ以外の中小税務署は、必要に応じて近隣署の国際税務専門官が調査の支援を行うことになっている。

税務署の移転価格調査と、国税局が行う移転価格調査は、調査そのものの仕方や狙いどころが違う。国税局調査部の移転価格調査部門が行う移転価格調査は、移転価格にターゲットを絞って行われ、調査期間は2年前後に及ぶ。調査対象も棚卸取引における販売価格の適否や無形資産取引の対価であるロイヤリティ料率の適否など、検討に時間を要するものが一般的だ。

法人税調査と同時に意外と短期間で終了も

一方、税務署が行う移転価格調査は、一般の法人税調査と同時に行われ、調査日数にも2~3日と短期間に行われる。そのため、時間的制約から、調査は海外子会社へ技術支援等を行った場合の対価の回収の適否や、海外子会社へ資金提供した場合の貸付金利の適否など、比較的短期間で終了する調査が中心となっている。

国税OB税理士の話では、実際に多いケースとして「海外子会社に出張支援したにもかかわらず、対価を全く取っていなかった」「子会社に対する貸付金利が適正金利よりも低かったという事案」としている。

また、これは移転価格調査として発表されていないが(上記移転価格の申告漏れ件数にはカウントされていない)、「対価の回収漏れがあった場合に、海外子会社に経済的利益を供与したものとみなして『国外関連者に対する寄附金』として早期に課税処理されるケースが多い」と言う。

法人が支出した寄附金のうち、国外関連者に対するものは、その法人の所得の計算上、損金算入できない(全額損金不算入)とされる。

ある中堅メーカーは、海外子会社へ従業員を出向させ、その給与を全額、親会社であるメーカーが負担し税務上の損金にしていた。しかし、当局は「本来、海外子会社が負担すべき給与を親会社が負担するのはおかしい。給与は子会社への寄附金とする」と否認された。また別のメーカーでは、「留守宅手当は寄附金にあたる」と当局から指摘されたケースもあるという。 移転価格調査は、通常の海外取引の調査とは異なる切り口で展開されるため、提出を求められる書類なども通常の法人税調査とは違ったものになる。そのため、海外進出しているクライアントがいれば、会計事務所としても日ごろから移転価格調査に備えた対応が不可欠だ。

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