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最終更新日:2021-03-10

「新電子帳簿保存法」を使って生き残る 「ITと組み合わせてこそ、効果が現れる」

  • 2016/05/20
  • 2021/03/10
「新電子帳簿保存法」を使って生き残る 「ITと組み合わせてこそ、効果が現れる」

さくら中央税理士法人 代表 税理士 安田 信彦氏

平成27年度の税制改正において、国税関係書類に関する電子帳簿保存法が改正されました。改正前のスキャナ保存制度は利用に際しての要件が多数あり、その煩雑さを嫌ってこれまでに国税当局からスキャナ保存の承認を受けた件数は、僅か133件。今回の要件緩和で承認件数が増え、スキャナ保存の導入が一気に進むのかどうかが注目されています。
そこで、税理士業務において、多くのメリットをもたらす“新電子帳簿保存法”への取り組みについて、会計事務所のペーパレス化を実践し、IT推進事務所として有名なさくら中央税理士法人の安田信彦代表税理士に、導入手順をわかりやすく解説してもらいました。

安田信彦氏 プロフィール
さくら中央税理士法人代表。平成2年税理士登録。同22年東京税理士会主催の情報フォーラム『税理士事務所IT化コンテスト』において最優秀賞を受賞。定期的に開催している無料の事務所見学会には全国から参加する多くの税理士、経営者、ITシステム担当者に対してさまざまなソリューションを提案し続けている。
http://ysd21.c

税理士の仕事が無くなる?

マイナンバーの登場で私たち税理士の仕事は大きく変化してきます。マイナポータル(平成29年1月からマイナンバーを付されている人全員に作られるポータルサイト)の開設により、年末調整や確定申告を個人で行うことがあたり前ということも、近い将来起こりうるわけです。つまり、このまま同じ事をしていれば明らかに私たちの仕事の領域が小さくなってきます。ひょっとすれば課税も損益法から財産法へシフトしていく時代が来るかもしれません。そんなことになったら税理士の仕事すら無くなる?それはちょっと早まった考え方です。

事業の隆盛を見るのは損益法による儲けの算出から行われますし、経営分析も損益から行われます。私たちのビジネスはこのような形で変化していく可能性があるわけです。昨年私は全国でマイナンバーの講演を100回以上行いました。講演会場で、「これから私たち税理士は変化に対応していかなければ生き残れない」と話してきた元はここにあります。新年早々に発売された週刊エコノミストの表紙は衝撃的なものでした。変化をしなければ「これじゃ食えない!」となるわけです。そこで、変化するために電子帳簿保存法を使ってみませんかというお話になります。

「スキャナ保存がもたらすメリット」

「スキャナ保存がもたらすメリット」

電子帳簿保存法は、平成10年7月に生まれましたが、その使い勝手の悪さにあまり普及はしませんでした。その後平成17年4月のe-文書法に引きずられる形で改正が行われましたが、その内容はまだまだというものでした。今回の平成27年9月の改正は、領収書の金額基準もなくなり大幅に使い勝手の良いものとなりました。簡単に言うと今まで保管していた一定の書類関係を一定の要件の下にスキャン(以下「Scan」と表現します)し、電子的に保存すれば原本は廃棄してもかまわないというものです。皆さんの顧問先で都会の真ん中のビルで、高い家賃を払っている会社の一角に何の収益も生み出さない税務調査のためだけに保管されている過去の書類が積まれているところはありませんか?顧問先から「先生!この書類捨てたいのですがどの位保管しておけば良いのですか?」こんな質問に先生は簡単に当たり前のように「7年もしくは10年」と答えてはいませんか?

この回答を「大丈夫ですよ!この間マイナンバーでお持ちしたスキャナ(以下「Scanner」と表現します。)で毎日、書類をScanして頂くだけでOKです。後は当事務所に任せてください。Scanして頂いた資料を月次監査でチェックさせて頂ければ、後は廃棄することが出来ます。今までご不便をおかけしました。この方法をとれば、私が御社に常駐しているのと同じような対応が出来るようになります。これからはもっと身近な御社の良き相談相手・総務・経理となる事が出来ると思います」。

このような状況に変えることが出来るのが、今回改正された電子帳簿保存法(以下、「新電子帳簿保存法」と言います)です。

新電子帳簿保存法を適用するには、今までの仕事のやり方に若干の手を加える必要はあります。以下、「お客様へのアプローチ」については、当事務所が現在行っている新電子帳簿保存法をお客様へ導入する手順そのままで大丈夫です。また、「事務所環境」については当事務所では既に完成させていますので、宜しければ無料事務所見学会を毎月開催しておりますのでお尋ねください。

(左の図「国税関係帳簿書類のスキャナ保存の区分」はこちらの国税庁サイトでご覧ください)

お客様へのアプローチ

1 . Scan環境を作り出す

1)複合機をお持ちのお客様であればメーカーの担当者と一緒にScanの設定を行います。この作業により原稿台に資料を置き、ワンボタンで資料が電子化されて事務所に届くことが可能となります。
2)Scannerをお持ちでないお客様には事務所からScanner(金額的には2万円弱で、その程度の出費で事務効率が大幅アップします)をお持ちして、会社のパソコンに接続して、設定をします。当事務所ではスタッフの全員が設置(さくらボックス の設定も含む)の方法を体得(それほど難しいことではありません。)しております。

※この設定作業の時に「さくらボックス 」の設定も行います。さくらボックス とは税理士仲間(参加者募集中)が共同して作り上げた「日本にあるサーバを使用し、ソフトも自己所有しているお客様の資料を安全にクラウドで収集できるシステム」です。参加者一人一人がサーバを共有する形で提供され、領域の切り売りをする方法ではないのも特徴です。お客様はワンボタンで資料をクラウド経由で会計事務所まで送ることが出来ます。

2 . 難しい操作という印象を与えない

1.の設定が済めばお客様での作業は終了です。ココで注意しなければいけないのは「お客様に操作が難しいと思わせてはいけない」と言うことです。この設定をするとお客様はコピー感覚で資料を電子化することが出来ます。

事務所環境を変化させる

事務所環境を変化させる

1.ペーパレス環境の構築

1)LANの構築(インターネット環境があれば簡単に構築できます)

2)ファイルサーバ(データをためて保存する箱)を設置する。値段の安い箱もありますが、いざという時のためにある程度しっかりしたものを用意することをお勧めいたします。

3)作業効率を良くするため、ディスプレイを全て2画面にします。高性能で安いものもあります。ふるさと納税で、ディスプレイをお礼としてくれるところもありますので、それらをうまく利用すると良いかもしれません。

4)電子ファイリングシステム「DocuWorks」(ドキュワークス)の導入をお勧めします。

※5人の事務所で環境構築にかかる費用は30万円位です。

2.新電子帳簿保存法を適用するための規定の作成

3.事務処理の流れの構築(自分で作り上げると時間が掛かるので、教えてもらった方が早道)

4.会計ベンダーの新電子帳簿保存法の対応の確認

ほとんどの会計ベンダーは現在、新電子帳簿保存法に対応するシステムの構築を準備中ですが、一部のベンダーはほとんど完成領域に入っています。

以上のような環境を作り上げることによって、新電子帳簿保存法の適用を受けていれば、お客様は書類をScanするだけで、経理のペーパレス化が実現できます。

タイムスタンプの重要性

あとは、事務所のペーパレス環境にお客様がScanした資料がどんどん格納されてきます。事務所はその資料にタイムスタンプを押印して、新電子帳簿保存法の対応を行います。

このタイムスタンプとは、「時刻認証」とも呼ばれ、電子化された文書の正当性を担保するものです。領収書の流用や改ざんを防止するため、「いつ」「何を」を証明するのがタイムスタンプの技術です。ですから、新電子帳簿保存法の運用に際しては、領収書を税理士事務所が勝手に画像化(スキャニング)したものは認められず、財団法人日本データ通信協会が認定するタイムスタンプでなければなりません。

このタイムスタンプを税理士事務所で導入するかどうかは、顧問先の数や規模、要望によって変わってくると思いますが、価格については、低料金を望みたいところです。

また、モニターの2画面のうち、片方の画面に電子資料を表示して、事務所が使用する会計ソフトで入力するのも可能ですし、電子資料を格納するフォルダに役割を持たせることで、事務効率を格段にアップすることも可能となります。

書類が画像データとして保存されていると、コンピュータの検索機能で素早く探すことができます。保存場所の縮小や書類を探す時間の短縮など、コストと労力の両面が抑えられるのが最大のメリットで、新電子帳簿保存法をうまく使うことによって、全く新しいお客様との繋がりを構築することが可能となります。

紙面の都合で新電子帳簿保存法の実務や細かな部分の説明は省略しますが、新電子帳簿保存法はITと組み合わせてこそ、その効果が現れると言うことを感じて頂けたらありがたいと思います。

今まで通りの仕事の仕方をしていても食えない時代は直ぐそこに来ています。これから一緒に変化を楽しんでみませんか?

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