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最終更新日:2021-03-10

『ナイトマーケット』に特化した成長戦略とは

  • 2015/06/01
  • 2021/03/10
『ナイトマーケット』に特化した成長戦略とは

松本税務会計事務所
代表税理士 松本 崇宏 氏

高収益体質を維持しつつ頼れる存在に

「何かに特化する」というのは、マーケティング戦略上、とても有効な手法のひとつだ。特化することによって、ノウハウや事例を数多く集めることができ、そのジャンルにおいて非常に強い存在になれるからだ。とくに、誰もがそう簡単に進出できない分野に特化することができれば、より高い集客効果が期待できる。自ら、“風俗専門税理士事務所”という看板を掲げ、他に類をみない独自のポジションを確立させているのが、松本崇宏税理士だ。特化戦略の考え方について紹介する。

一般的に多くの税理士が風俗営業・水商売を忌避する傾向がある中、あえてその市場をターゲットにしている松本税務会計事務所。代表を務める松本崇宏税理士は、ある高齢の税理士事務所に勤務した後、約5坪の事務所スペースで独立開業を果たす。その後、開業約8年で関与先をゼロから400件まで増やし、そのうち約150件は風俗やキャバクラなどの風俗業、いわゆる「ナイトマーケット」が占めている。
 松本税理士が風俗業界の支援に特化したキッカケは、一冊の本の出版にさかのぼる。「開業間もない頃、マネーリテラシーなどの分野で本を出版したいと思い、20社~30社の出版社に提案書を送りましたが、ほとんど相手にされませんでした」。
 その後、知人の紹介で小学館の編集者と知り合い、一冊の書籍を出版する。それが、今後の税理士人生に大きな影響を与えることになった『デリヘルはなぜ儲かるのか』だ。
 「本のタイトルもデザインも、私が提案したものとは全く違うものでしたが、圧倒的な力の差があり、私の意見なんて全く聞き入れてもらえませんでした。でも幸いにも、その書籍がヒットして、全国から問い合わせが寄せられるようになったことで、この業界に特化してみようと決意しました」。

顧客をフィルタリングしてリスク回避。年間100万円の顧問料も

風俗業界といえば、税務調査の不正発見で上位にランキングするほか、増差の金額も過去10年間のうち9年間で第1位。そのため、「風俗業界に特化することで、同業の業界内でも『色モノ』で見られることも多く、嫌な思いもしてきました。しかし、イメージの悪い風俗業界の中にも、真面目に経営をしたいと考えている人はいます。だから、その受け皿としてサポートしていきたかった」。
 本のヒットを機に各メディアが殺到。現在、5つの業種特化型ホームページを運営し、風俗営業の関する税金面だけでなく、「水商売」を志す人たちの羅針盤になるようなサイト運営を展開。経営者だけでなく、従業員、いわゆる“キャスト”からも頼れる存在にまで成長している。
 そうした特化戦略を展開していくことで、風営業全般に関する情報が事務所に集まるようになり、業界に熟知したアドバイザーという独自のポジショニングを築くに至っている。税務当局におけるナイトマーケット調査の専門部隊からも、一目置かれる存在になってきたという。
 ただ、そんなナイトマーケット故に、“癖”がある人も少なくない。そこで松本税理士は、経営者をフィルタリングすることで顧客を選んでいる。「脱税志向が強い人や報酬の値下げを求めてくる人は断っています。無理に契約を結べば、現場の職員たちが疲弊してしまう。通常の法人とは違い、ナイトマーケット関連のお客様からは、最初の相談は有料。紹介は別にしても、面談相談料として2万円を確実に頂いてます。もちろん、キャスト(女性従業員)からの税金相談には別料金を設定。そうしたフィルターをかけていますので、一般にイメージするようなリスクはありません」という。
現在、松本税務会計事務所には、ナイトマーケットの経営者から年間150件近くの問い合わせが寄せられている。そのうちおよそ半分はWebサイトからだが、紹介なども含めて新規契約は年間約70件、売上で約3千万円の純増という。今年も1週間に1社ほど、新規の顧客獲得を続けている。

 高額報酬の関与先といえば医療系の業種を思い浮かべるが、ナイトマーケットの顧問料は、それと同レベルか、それ以上だという。「顧問料の年間の総額が100万円を超えるお客様も珍しくありません。これもナイトマーケットの特徴といえるでしょう」。
 一方、松本税理士は低価格を打ち出すことは一切しない。「価格競争に参入しても、職員の仕事の量が増えるだけで給料は上がりません。今後、職員たちも結婚して家族ができます。同じ年収ではやっていけません。職員の家族からも『良い会社に入った』と安心してもらえる組織にしたいと本気で考えています。職員の人生を豊かにしてあげることが経営者の使命ではないでしょうか」。

明確な報酬料金の提示で安心感 マイナンバー関連で新たなWebサイトを構築

わずか8年でここまで事務所は成長したのは、単に風俗専門税理士事務所という珍しさだけではない。成長を続ける秘訣について松本税理士は、「相続支援に特化する事務所が、案件発掘に向けて仕掛けをするように、私たちも風俗系媒体を扱う広告代理店や、許認可を行う行政書士などと提携したり、Webサイトを充実させるなど、新規顧客を獲得するためのアクションを起こしています。どんな業種であれ、待っているだけで顧問先が増えることはありません」と言い切る。
 Webサイトでは、お店のメニューではないが、事務所のサービスメニューと料金表を明確に提示している。この業種に限って料金表を明確に提示している会計事務所は皆無に等しい。もともとこの分野に関与する税理士が極めて少ないだけに、報酬面で比較検討しづらいことが、比較的高い顧問料を稼げる要因ともなっている。
 また、報酬に関して松本税理士はあえて「顧問料」という呼び方を避けており、「会計チェック報酬」をベースに、記帳代行および決算料の積み上げスタイルを明確に案内している。税務調査は30万円からのオプション料金を設定している。
 さらに、Webサイトでは、お客でもある風俗経営者からの写真付きのコメントや動画も掲載しており、税務調査における是認通知書の公開もWeb上で行うなど、様々な情報を前向きに公開していくなかで、徹底したWebマーケティング戦略を展開している。そのほか、顧問先を集めての交流会も実施するなど、ネットワークづくりにも余念がない。
ナイトマーケットの市場規模は数兆円とも言われているが、正確な数字は未知数。合法的な節税対策はともかく、税務調査への対応は特化税理士らならではのノウハウや経験が活かされる分野とあって、今後の方向性として、「税務調査対応時の訴求といった分野にも積極的に対応していきたい」という。

 現在、20名を超す世帯を切り盛りする松本税理士。所長単独での営業には限界があり、継続的に新規顧客を獲得するためには、職員にも営業を意識した活動を率先して行うように指示している。とくにナイトマーケットに限らず、飲食業や美容業、リラクゼーション系などのいわゆる現金商売の顧客開拓も同時に展開していく方針だ。また、所内でも新規営業戦略のアイデアを持ち寄ることで、新たなビジネスも芽生えつつある。今年の確定申告期に立ち上げたWebサイト「同人税金ドットコム」もその一例だ。また、「キャスト税金ドットコム」においては、意外にもマイナンバー制度についての相談が増加していることが背景にあり、「今後、有力な集客サイトに仕上げていきたい」と語る。
 松本税理士の成功の秘訣は、高収益体質を維持するための明確な経営ビジョンに基づく、他の追従を許さない業種特化戦略にありそうだ。

松本税務会計事務所
代表税理士 松本 崇宏 氏

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