ビジネスモデル
ファブレス経営とは?メリット・デメリット10選と代表的な企業7選
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従来の製造業では、商品の企画から製造、販売まで一貫して行うのが通常でしたが、現在ではそれとは異なる「ファブレス経営」というビジネスモデルが登場しています。さまざまなメリットがあり、多くの企業で取り入れられている「ファブレス経営」ですが、そもそもどういった経営手法なのでしょうか。また、デメリットや具体的な事例についても知りたいところです。
本記事では、「ファブレス経営」の意味やメリット・デメリット、導入している代表的な企業について紹介していきますので、「ファブレス経営」について知りたい人はぜひ参考にしてみてください。
ファブレス経営の意味とは?
「ファブレス経営」の「ファブレス」とは、「工場」を意味する「ファブリケーション(fabrication)」と、「ない」を意味する「レス(less)」を組み合わせて作られた言葉です。
つまり「ファブレス経営」は、「自社では工場などの生産設備を持たず、生産については外部企業に委託するスタイルの経営」といった意味を表すことになります。
このことにより、リソースを企画やデザイン、マーケティングといった「高付加価値分野」に振り向けられるので、資本力に乏しい企業でも、高いブランド力を示すことができます。
始まったのは1980年代のアメリカで、製品のライフサイクルが短く、設備投資コストが高くなりがちな半導体生産の課題解決手段として生み出されました。現在はベンチャー企業などを中心として、日本でも多くの企業がこのモデルを採用しています。
メリットとデメリット
ファブレス経営の意味は上で見た通りですが、より詳しい特徴についても知りたいところです。以下の項目では、ファブレス経営の持つメリットとデメリットの双方について、それぞれの主なものをいくつか挙げて紹介していきましょう。
メリット
生産設備への投資が不要
ファブレス経営のメリットとしてまず挙げられるのは、「工場など生産設備への投資が不要」ということです。
自社で生産ラインを一から立ち上げようとする場合、必要な投資は莫大になります。これは、資金に乏しい中小企業やベンチャーなどにとって大きなネックです。一方ファブレス経営なら、これらのコストはほとんどかかりませんから、新たな市場への参入が容易になります。万一上手く行かずに撤退という事態になっても、ダメージは最小限で抑えられるでしょう。
経営コストの削減
ファブレス経営のメリット、2点目は、「生産関連の経営コストが削減できる」ということです。
生産ラインにかかるコストは、初期投資だけではありません。その後の運営にあたっての、人件費や設備維持費といった固定費用も、継続して捻出する必要があります。一方、はじめから生産設備を持たないファブレス経営であれば、これらのコストも不要になります。また発注の量で調整が効くので、量産体制への移行や事業縮小などにもスムーズに対応することができます。
得意分野への経営資源の集中がしやすい
「経営資源を自社の得意分野に集中できる」ということも、ファブレス経営のメリットです。
上でも述べたように、ファブレス経営では生産体制の構築・維持への投資が基本的に不要となります。ですので、その分資金や人材などの経営資源を、企画やデザイン、開発力といった自社の持つ強みに選択的に集中させることができます。それによって自社のブランド力が高まり、他社製品との差別化も実現されて、商品により高い価値を付加することができます。
市場の変化への柔軟な対応が可能
ファブレス経営のメリット、最後に挙げるのは、「市場の変化に対する柔軟な対応が可能になる」ということです。
変化の激しい現在の市場にあっては、メーカーには常に市場ニーズに敏感であることが求められます。ファブレス経営の場合、生産を外部委託することで資金の固定化を免れますから、市場に投入する間際まで、商品の開発や生産数の調整を行うことができます。それにより、より柔軟な市場ニーズへの対応が可能となります。
デメリット
外注コストがかかる
ここからはデメリットですが、最初に挙げるのは、「自社生産の場合より外注コストがかかる」ということです。
上で述べたように、ファブレス経営は自社で生産設備を持たず、外部に生産を委託する形になります。ですので、経営コストは抑えられても、当然ですが外注コストは発生することになります。このコストは生産量が増えるほどかさんでいくため、大量生産が前提となるなどの場合であれば、自前での生産体制構築を考えた方が、メリットが大きいことも考えられます。
品質管理に不安がある
ファブレス経営のデメリット、2点目は、「品質の保持が難しい」ということです。
製品についてのこまかい品質管理は、自社で生産ラインを持つ場合、比較的容易に行えます。しかし、生産を外注するファブレス経営の場合は、それほど簡単ではありません。委託先によって、どうしても品質にはバラつきが出てきます。場合によっては粗悪な製品が流通するおそれもあるため、事前の工場選びや、品質保持の仕組みづくりが重要になってきます。
製造ノウハウが蓄積されない
「製造ノウハウの蓄積ができない」ことも、ファブレス経営のデメリットに挙げられます。
自社で製品を作るのであれば、その製造に関するノウハウを培うとともに、社内で生産者や職人を育成することも可能です。しかし、外部に生産を任せてしまう以上、そうしたノウハウの蓄積や人材育成は期待できません。それだけでなく、生産の現場で気付いた改良の余地や消費者の意見などを、研究開発にフィードバックさせることも難しくなります。
情報漏洩の危険性がある
ファブレス経営のデメリット、4つ目に挙げるのは、「情報漏洩の危険性がある」ということです。
製造を外部委託するということは、それだけ、設計やデザインなどのノウハウ流出の可能性が高まるということでもあります。特に、委託先が独自の販売網を持っている場合、ノウハウの流出で商品が模倣されてしまうと、自社ブランドの強みを打ち消すことにつながります。このような事態を避けるには、生産工場探しにおいて、生産に特化したところを選ぶのが最善でしょう。
類似品との差別化が求められる
何度も述べているように、ファブレス経営では生産を外部に委ねることになりますが、これは言い換えれば、どの業者でも似たような製品を作れるということです。そのため、自社製品の発売後、類似の製品が市場に出回ることは十分考えられます。
その場合消費者は、残念ながら目新しさのある類似品の方を選ぶ確率が高くなっています。この点も、ファブレス経営のデメリットと言えるでしょう。こうした状況に陥らないためには、類似品に打ち勝てるような独自の市場の形成が鍵となります。
在庫リスク
生産を委託される工場は、製造する数量が少ないと製品1個ごとのコストが上がってしまうため、一定以上の数量でなければ、生産を請け負うメリットがありません。そのため、ファブレス経営ではまとまった数量の発注を行わなくてはなりませんが、販売は自社で手がけるため、在庫の面ではリスクを抱えることになります。つまり、まとまった数量をさばける市場が形成できなければ、過剰在庫が発生する確率が高いということです。
こうした点も、ファブレス経営のデメリットに挙げられます。
ファブレス経営企業一覧
ここまでファブレス経営の意味と、そのメリット・デメリットについて見てきましたが、続いては具体的な事例について見ていきましょう。
以下の項目では、実際にファブレス経営を行っている企業を7つピックアップして、その特徴などを解説しています。
Apple
ファブレス経営企業一覧、最初に紹介するのは、世界有数のテクノロジー企業である「Apple」です。Appleは、ファブレス経営の先駆けとして知られています。
MacBookやiPod、iPhoneなどといった数々の先進的な製品を世に送り出してきましたが、それらの製造は外部に委託しており、本社は工場を持ちません。その分のリソースは、一番の強みであるデザインや設計に集中的に投下してきました。情報漏洩に対しては、委託先の工場をAppleが所有することで防いでいます。
任天堂
ファブレス経営の代表的な企業、2つ目に紹介するのは、コンピューターゲームの開発などで知られる「任天堂」です。
ゲームや玩具の場合、人気の変動が激しく、あっという間にブームが終わってしまうことも珍しくありません。そのため、常に過剰在庫のリスクを警戒しなくてはならないという問題を抱えています。任天堂の場合、中国を中心として製造を委託することで、生産数の調整などを行っています。仮に製品開発に失敗した場合でも、最小限の痛手で撤退することが可能です。
キーエンス
「キーエンス」は、世界各国で事業を展開する日本の測定機器メーカーですが、こちらも代表的なファブレス経営企業にあたります。
一番の強みは企画力で、これは新商品の7割が世界初、もしくは業界初である点からも伺えます。ファブレス経営により、十分なリソースを企画開発に割いている結果と言えるでしょう。またキーエンスは、販売を直接行っている点も特徴で、自社での改善点の把握が容易なことから、それを新たな企画開発に反映させやすいという強みもあります。
NIKE
続いての事例は、「NIKE」です。言わずと知れた世界的スポーツ用品会社ですが、やはり代表的なファブレス経営企業として知られています。
主力商品であるスニーカーやスポーツウェアなどの製造は外部に委託しており、本社では製品デザインや法務・マーケティング、契約工場のコントロールといった事業に注力しています。主な製造場所となっているのは、ベトナムやインドネシアなどのアジア地域で、海外業務委託のコスト削減効果により、高収益を実現しています。
無印良品
株式会社良品計画が展開する「無印良品」も、ファブレス経営の事例の1つです。
今や世界的にも有名なブランドですが、立ち上げ後の早い段階から海外に製造を委託しており、国内におけるファブレス経営の先駆け的な存在として知られています。一貫した製品管理が実施されており、無印良品のためにデザインされたもの以外、絶対に扱わないというルールが徹底されています。デザイン面のこだわりの強さも特徴で、製品デザインには、山本耀司や難波和彦といった著名なデザイナーが数多く関わっています。
https://www.muji.com/jp/ja/store
伊藤園
続いて紹介する事例は、「伊藤園」です。緑茶などの販売で知られる飲料メーカーですが、やはりファブレス経営を取り入れており、製造に関してはグループ外の工場に委託しています。これにより、設備投資や物流費の削減を実現しました。
ただし、緑茶飲料の味や品質を決める原料茶葉の仕上げ加工については、自社で行っているほか、原料である茶葉の茶畑拡大事業や、栽培者育成事業についても注力しています。品質管理にも厳格で、「問題があればすぐに取引停止」という徹底した姿勢により、ブランド力を維持しています。
ユニクロ(ファーストリテイリング)
ファブレス経営企業一覧、最後に紹介するのは、「ユニクロ(ファーストリテイリング)」です。近年積極的な海外展開を行っているユニクロですが、衣料品の分野でファブレス経営を成功させた企業として知られています。
商品の製造は主に中国に委託しており、その分のリソースは、企画やデザイン、素材調達や販売といった分野に振り向けています。また、商品の品質維持についても力を入れており、委託先の工場への品質管理チームの派遣なども行っています。
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