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問題・トラブル

有給休暇の16の基本(消滅・期限・買取・拒否・退職・理由・計算など)

有給休暇の基本(消滅・期限・買取・拒否・退職・理由・計算など)

監修者

弁護士:村岡つばさ(よつば総合法律事務所千葉事務所)

よつば総合法律事務所千葉事務所

弁護士 村岡つばさ

よつば総合法律事務所の弁護士の村岡と申します。日常生活や会社を運営する中で気になる法律の問題を分かりやすく解説します。

有給休暇の16の基本(消滅・期限・買取・拒否・退職・理由・計算など)

会社で勤めた経験のある方なら、皆「有給休暇」という言葉の意味は分かると思います。
ただ、実際に有給休暇を利用しようとした際に、「自分の有給休暇の日数が何日あるか分からない」「何日前までに会社に伝えれば良いの?」「プライベートな理由でも、有給休暇を取得できるの?理由は会社に言わないといけないの?」等、有給休暇のルールが良くわからず、悩まれる方も多いのではないでしょうか。
また、中には、「うちには有給休暇はない」などと、有給休暇自体の制度がないと従業員に説明している会社もあります。

実は、有給休暇の基本的なルールについては、すべて「労働基準法」で明確に定められています。
今回は、有給休暇の基本的な知識について、お話させていただきます。

有給休暇とは

正式な名称は、「年次有給休暇」と言います。「有給」「有休」などと略されることもあります。
簡単に言うと、有給休暇とは、「給与が支給される休暇」です。通常、会社を休む場合には、「ノーワークノーペイ」というルールにより、休んだ分の給与は支給されませんが、この有給休暇を取得すると、会社を休んでも給与が支給されます。

この有給休暇とは、法律で認められている労働者の「権利」です。会社が自由にルールを設定することもできなければ、有給休暇を使わせないということもできません。有給休暇を使ったことを理由に、人事評価を低くしたり、ボーナスを減額するということもできません。

このように、有給休暇は、法律上当然に発生する「権利」という点が重要です。

社員の心身をリフレッシュさせるのが目的

法律上、有給休暇が労働者の「権利」として認められている趣旨・目的は、従業員の心身をリフレッシュさせるという点にあります。

通常、仕事を休むとお給料が下がってしまうため、どんなに仕事を休みたくても、生活上の問題などから、中々仕事を休むのは難しいでしょう。ただ、給与が補償された休暇を法律上の「権利」として労働者に与えることにより、給与面等を気にすることなく、休暇を取ることができ、心身のリフレッシュを図ることが可能となります。

有給休暇は入社当初は付与されていない

上で見た通り、有給休暇は、法律上当然に発生する「権利」です。ただし、法律上、有給休暇が労働者に与えられるタイミング・要件が定められており、入社直後から有給休暇が使えるわけではありません。
具体的には、以下の2つの条件を両方ともクリアすることで、法律上、有給休暇が付与されることとなります

①会社が労働者を雇い入れた日から6カ月が経過していること
②全労働日の8割以上出勤していること

前者はわかりやすいですね。法律上は、入社から6か月が経過しなければ、有給休暇は発生しないこととなります。そのため、入社して3か月程度しか経過していない従業員が、有給休暇を取得することは、基本的にはできません。
後者は、その労働者が出勤を予定している労働日(休日等は含まれません)の8割以上出勤していることが必要という意味です。あまりにも欠勤が多い場合には、有給休暇が発生しないと覚えておけばよいでしょう。

ただし、上記①②の条件は、あくまでも「法律上」のお話です。
会社が、これらの条件より厳しい条件を設定することは認められませんが、条件を緩和すること自体は可能です。
例えば、「入社から1年経過しないと有給休暇は発生しない」というのは違法ですが、「入社から3か月で有給休暇が発生する」と定めることはできます。
現に、労働者の福利厚生の観点や、有給休暇の日数の管理の楽さから、法律上の要件よりも緩和した条件を定めている会社も多く存在します。

勤続年数に応じて有給休暇は多くなる

上で記載した①②の条件をクリアすると、正社員の場合、まずは10日間の有給休暇が付与されます。そして、最初に有給休暇が付与されて以降は、1年毎に有給休暇が付与されることとなりますが、この付与される日数は、以下の表のように、勤続年数に応じて増えていきます。

雇い入れの日から起算した付与される有給休暇の日数表(正社員の場合)

雇い入れの日から起算した付与される有給休暇の日数表

なお、今の法律上、取得しなかった有給休暇は、付与日から2年が経過すると、時効により消滅してしまいます。2年間は消滅しないため、有給休暇が年20日付与されるような、一定程度の勤続年数がある方が、2年間全く有給休暇を取得しなかった場合には、計40日分、有給休暇を取得することが(理屈上は)可能です。

有給休暇の日数表

会社は5日間、有給休暇を取得させなければならない

2019年4月より、法律が改正となり、会社は、年10日以上有給休暇が付与される従業員については、少なくとも年5日間は、有給休暇を取得させなければならないことが義務付けられました(違反した場合の罰則もあります)。

これは、有給休暇の制度自体はあるものの、有給休暇の取得率が中々伸びなかったことから、有給休暇を取得させることを会社の「義務」とすることで、有給休暇の取得を促進するという点が目的です。
例えば、上で見た通り、正社員の場合、入社後6か月間、特に出勤率に問題なく勤務していれば、まずは10日間の有給休暇が付与されます。そのため、付与された日から1年以内に、少なくとも5日間は有給休暇を「取得」させる必要があります。

正社員だけでなくアルバイトやパートにも付与される

有給休暇は、付与される日数に違いはあるものの、正社員だけでなく、アルバイト・パートといった勤務形態の方にも付与されます。
そのため、アルバイト・パートの方も、条件(雇入れの日から6か月継続勤務+出勤率8割以上)を満たせば、有給休暇が付与されます。

アルバイト・パートの方の、有給休暇の付与日数は以下のとおりです。

有給休暇の付与日数

なお、アルバイト・パートの方であっても、正社員と同じように、週5日以上勤務される方もいます。この場合には、正社員のところで見たのと同じ日数が付与されることとなります。

取得理由を会社に伝える義務もない

有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュのための制度であるため、どのような理由で有給休暇を取得しても問題ないですし、取得理由を会社に伝える義務もありません。
会社から理由を確認されても、明確に伝える必要はなく、単に「私用のため」とのみ伝えれば十分です。

有給休暇の取得日を変更される場合があり得る

有給休暇は、基本的には、いつでも、どんな理由でも取得することができます。
ただし、無制限に有給休暇を認めては、会社の仕事が回らなくなる可能性もあります。
そこで、法律は、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」と定め、一定の場合に、会社側から有給休暇の取得日(時季)を変更することができると規定しています。これを、「時季変更権」などと呼びます。

時季変更権は、あくまでも有給休暇の取得日を「変更」するものであり、取得自体を拒否することはできません。時季変更権を使用する場合でも、必ず別日に、有給休暇を付与しなければなりません。
また、この時季変更権を行使することができる場面は、かなり限定的に考えられており、会社としても、簡単に有給休暇日を変更できるわけではありません。単に「忙しいから」「繁忙期だから」「人が足りないから」といった事情だけでは、変更は認められないでしょう。

ただし、長期間連続して、まとまった有給休暇を取得する場合には、会社の仕事への影響も大きいため、時季変更権がやや認められやすいという傾向にあります。労働者としても、このような有給休暇の場合には、事前に会社に相談し、取得時期を調整するのが良いでしょう。

当日の有給休暇の申請は原則として拒否できる

勤務日当日になって、急な体調不良等により有給休暇を取得したいと考えることもあると思います。
この点の判断は分かれる部分ではありますが、法律上は、当日の有給休暇の取得は認められない可能性が相当程度あります。

有給休暇は、あくまでも労働者が会社に「事前」に申請(指定)するものです。
勤務開始時間が9時の場合、9時より前であれば「事前」とも思えますが、労働基準法は、「0時から24時」を一労働日として扱っているため、午前0時を過ぎれば、それは「事前」ではなく「当日」の休暇申請となります。

ただし、実際には、体調不良等の理由であれば、勤務開始時間の直前であっても、有給休暇の取得を認めてくれる会社が多いでしょう。

有給休暇の事後振替は基本的にNG

これも上で見た、「当日」の有給休暇の取得と同じ話です。
有給休暇は、あくまでも労働者が会社に「事前」に申請(指定)するものであるため、欠勤後、事後的に、「やっぱりこの日を有給休暇にして欲しい」と振り替ることはできません。
有給休暇の取得を希望する場合には、必ず事前に会社に申請しましょう。

ただし、上記は、会社として有給休暇の取得を認める義務はない、というものであり、会社が事後振替を認めてくれるのであれば、有給休暇として扱うことも可能です。

退職時に有給休暇を全て消化できる

退職することが決まり、残っている有休取得を最後に取得したい、という方も多くいます。
既にお話した通り、会社は、有休取得時期を「変更」することはできますが、有給取得自体を「拒否」することはできません。
「〇月〇日まで出社して、残りは有給休暇を取得する」というような場合、有給休暇の取得時期を変更することは、実質的に有給休暇の取得を拒否することを意味します。既に退職日が決まっている以上、別日で有給休暇を取得させることができないからです。

ただし、十分に引継ぎ業務を行わず、いきなり退職を告げ、翌日から有給休暇を取得して出社しないというような場合、その後に会社とトラブルになる可能性もあります。そのため、退職を決意した時点で速やかに会社に伝え、十分に引継ぎ業務を行った上で、有給休暇が取得できるように調整することをお勧めします。
また、場合によっては、次の項目で述べるように、最終日まで引継ぎ業務を行いつつ、残っている有給休暇を買い取ってもらうことも可能な場合があります。

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有給休暇の買取は原則できないが、例外もある

有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュのために設けられた制度であるため、会社からの買取を認めては、この趣旨を損なうこととなります。そのため、原則として有給休暇の買取は認められません(違法となります)。

しかし、一定の場合には、有給休暇の買取を行うことが認められます。
例えば、①法律上付与される日数を超える部分の有給休暇分(例:法律上は10日の付与となっているが、会社が15日付与した場合、差の5日は買取OK)、②時効によって消えてしまう有給休暇分、③退職により使い切れない有給休暇分の買取等は、「違法」にはならないと考えられています。

ただし、これは「違法ではない」というだけであり、労働者に「有給休暇の買取請求権」があるわけでも、会社が買取に応じなければならないわけでもありません。有給休暇の買取が違法ではなく、かつ会社が買取を認めた場合に初めて、有給休暇の買取の処理が行われることとなります。

有給休暇の取得を拒否された場合

既に見た通り、有給休暇は法律上当然に付与される「権利」であり、会社が有給休暇の取得自体を拒否することは認められません(一定の場合には時季変更権は行使できます)。

仮に、有給休暇の取得自体を拒否された場合や、有給休暇を取得したことによる不利益を受けたような場合には、このような会社の対応が労働基準法に反することは明らかですので、労働基準監督署や、弁護士事務所に相談されることをお勧めします。

特別有給休暇を付与している会社もある

ここまで見てきた、法律上当然に付与される有給休暇とは別に、会社が独自に特別な有給休暇を付与していることもあります。
多いものとしては、慶弔休暇(身内に不幸があった場合の休暇)などが挙げられます。
なお、給与自体は支給しないものの、人事考課上、欠勤としては扱わない(懲戒処分等のペナルティは課さない)という休暇もあります。

そもそも特別有給休暇を付与しているか、付与している場合でも、どのような場合に何日取得できるか、といった点は、会社により異なります。そのため、就業規則・雇用契約書等を確認し、どのような休暇があるかを確認するのが良いでしょう。

就業規則を確認することが大切

有給休暇の基本的なルールについては、労働基準法に定められていますが、有給休暇の申請方法や、何日前までに取得の申し出を行うかといった部分については、各社の就業規則に定められているのが一般的です(労働基準法に違反する条件は定められませんが)。
そのため、まずは就業規則の内容を確認することが大切です。

有給休暇を取得させることは会社にもメリットがある

法律も改正され、単に有給休暇を付与するだけでなく、「使わせる」ことが義務になりました。もはや、有給休暇を取得できるのは当たり前で、「どの程度有給休暇を消化しているのか」という点が重要視されています。
ここ最近では、採用活動時に「有給休暇の消化率」をアピールする企業も増えてきており、採用面でのアピールポイントにもなっています。

会社にとっては、コスト面にのみスポットが当たりがちな有給休暇ですが、労働者の心身のリフレッシュによる生産性の向上、離職率の低下、優秀な人材の確保といった点で、会社にとってもメリットがあります。

有給休暇の基本(消滅・期限・買取・拒否・退職・理由・計算など)

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