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残業・休日出勤

退職や未払い、申請、計算、違法など残業の基本16選

退職や未払い、拒否、申請、計算、違法など残業の基本

監修者

弁護士:村岡つばさ(よつば総合法律事務所千葉事務所)

よつば総合法律事務所千葉事務所

弁護士 村岡つばさ

よつば総合法律事務所の弁護士の村岡と申します。日常生活や会社を運営する中で気になる法律の問題を分かりやすく解説します。

退職や未払い、拒否、申請、計算、違法など残業の基本について

この記事を読んでいる方は、社会人で既に働いている方が多いと思います。
社会人であれば、おそらくほぼ全員が「残業」という単語をご存じかと思いますが、「残業代の計算の仕方はどうなっているのか」「残業代が払われない場合、いつまでなら残業代を請求できるのか」「サービス残業は違法なのか」など、残業の細かいルールまでは把握できていない方が多いのではないでしょうか。

この記事では、残業に関する基本について、いくつか紹介していきます。

労働時間は8時間までが原則

労働基準法では、1日の労働時間は8時間まで、週の労働時間は40時間までと決められています。そのため、労働者に対して、この1日8時間、週40時間以上の労働をさせることは、本来は違法となります。
ここでポイントなのは、何時間残業をさせるか、という点に関わらず、8時間・40時間を超えて労働させた時点で直ちに違法になるという点です。

ただし、次の項目で見るように、「36協定」というものを会社-労働者間で結ぶことにより、適法に残業を命じることができるようになります。詳しく見ていきましょう。

36協定により残業をさせることが可能になる

もっとも、ほぼすべての会社では、1日8時間、週40時間を超える労働をさせています。突発的な業務量の増加により、残業が必要になることもあります。
これがすべて違法になると、社会は回りなくなります。

先に見た通り、会社と労働者(正確には従業員の過半数の代表者か労働組合)との間で、「36協定」と呼ばれる労使協定を結び、これを労働基準監督署に届け出ることにより、1日8時間、週40時間を超えて労働させること、つまり残業させることが可能となります。

裏を返せば、このような36協定を結んでいない場合や、労働基準監督署にこれを届け出ていない場合には、これらの時間を超えて労働させることはできません。この場合、会社には、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課される可能性があります。

残業させることができる時間には上限がある

36協定を締結している場合でも、無制限に残業をさせることはできず、原則として、「1ヶ月に45時間、1年で360時間まで」が、残業を命じることができる上限の時間となっています。

ただし、「特別条項」というものを設けることにより、「1ヶ月に45時間、1年で360時間まで」という上限を超えて、残業を命じることができます。「特別」という名前の通り、この特別条項を定めた場合、「1か月100時間未満、1年で720時間」まで、残業を命じることが可能となります。そのほか、複数月の平均の残業時間が80時間を超えない等、会社が遵守すべきルールはいくつかあります。
この特別条項を定めた場合の上限時間等は、いわゆる「働き方改革」の法改正により、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から、新しく設けられたルールとなります。

時間外労働の上限規制 わかりやすい解説

厚労省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf

「法内残業」と「法外残業」

少し細かいですが、残業には、「法内残業」と「法外残業」の2つがあります。

「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えた場合、「法外残業」として、残業代を請求することができます。この場合、深夜・休日労働等を考慮しなければ、1時間当たりの給料の1.25倍の残業代を請求することができます。

一方、法内残業とは、法定労働時間は超えていないものの、会社が定める「所定労働時間」を超えて労働をする場合を言います。

例えば、始業が9時、終業が17時、休憩が1時間の場合、会社の「所定」労働時間は7時間です。この場合、17時から18時まで1時間残業をしたとしても、1日の労働時間は8時間となり、法定労働時間を超えません。
そのため、いわゆる残業代として、基礎時給の1.25倍の金額を請求することはできません。
ただし、1時間の時給分の給与を請求することはできます。例えば、1日7時間が所定労働時間で、日給7000円が支給されている場合、1時間の時給分として1000円(計8000円)を請求することができます。

残業代の計算方法

では、どのような計算により残業代を算出するのでしょうか。
労働基準法では、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合や、深夜労働(22時~翌5時)を行った場合、休日労働を行った場合には、通常の賃金とは別に、割増賃金が発生すると定められています。

ここでは、時給が1000円と仮定して、以下具体的な割増賃金の額を計算してみます。

①法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合

残業時間に対し、1.25倍の割増賃金が支給されます。
例えば、1日10時間労働した場合には、2時間×1000円×1.25=2500円が割増賃金として支払われる金額です(深夜残業は考慮していません・②で見ていきます)。

②深夜労働(22時~翌5時)を行った場合

法定労働時間を超えず、単純に深夜労働を行った場合には、25%の割増賃金を支払う必要があります。時給が1000円の場合には、1250円となります。
他方、法定労働時間を超えて、かつ深夜に労働を行った場合(「深夜」に「残業」をおこなった場合)には、①の1.25倍に0.25を加えた1.5倍の割増賃金を支払う必要があります。
例えば、1日10時間労働をして、最後の2時間(残業時間)が深夜労働に当たる場合には、2時間×1000円×1.5=3000円が、割増賃金として支払われる金額です。

③月の残業時間が60時間を超えた場合

残業時間に対し、1.5倍の割増賃金が支給されます。ただし、中小企業においては、2023年4月までは、適用が猶予されています。

④法定休日に労働を行った場合

会社は、「週1回又は4週のうち4日以上の休日」を労働者に与えなければならず、これを「法定休日」と言います。
この法定休日に労働をさせた場合、1.35倍の割増賃金を支払う必要があります。

管理職でも残業がつく場合がある

「管理職は残業代が出ない」という話を耳にすることも多いと思います。
労働基準法においては、いわゆる「管理監督者」の地位に当たる人には、労働時間や休日などに関するルールが適用されないと定められています。その結果、この管理監督者に対しては、深夜残業を除き、割増賃金を支給する必要はありません。

ただし、この「管理監督者」と認められるためのハードルはかなり高く、単に「管理職」の地位にあることだけで、管理監督者になるわけではありません。いわゆる「名ばかり管理職」の場合には、労働基準法上の「管理監督者」には当たらず、通常の労働者と同じように、残業代を支給する必要があることとなります。

「一定程度の役職にある」というだけでは、管理監督者には当たりません。「役職名」ではなく、どのような立場・権限を有するか、どのような労働条件か、という点が非常に重要です。例えば、あるファーストフード店の店長が、この管理監督者に当たらないと判断された裁判例もあります。

早朝出社も残業時間と評価され得る

「残業」と聞くと、仕事が終わらずにそのまま残って仕事をすることをイメージするかと思いますが、会社の定める始業時間より前に出社して仕事をすることも、「残業時間」に当たる可能性があります。「早出残業」と呼ばれることもあります。

終業時間後の労働だけでなく、始業時間前の労働も、「法定労働時間」を超える場合には、割増賃金の支給対象になり得ます。

掃除や朝礼のために早く出社する場合も労働時間に当たり得る

始業時間が定められているにも関わらず、掃除や朝礼を行うために、始業時間より前に早く出社することを事実上義務付けている会社もあります。

このような掃除・朝礼のための時間も、会社から(事実上)義務付けられているような場合には、「労働時間」に該当することとなります。そして、これが法定労働時間を超える場合(先にみた「早出残業」に当たる場合)には、割増賃金を請求することができます。

飲み会も強制されれば労働時間になり得る

「飲み会が労働時間?」と思われる方も多いかと思いますが、飲み会も、任意参加ではなく強制参加の場合には、労働時間に当たり得ます。
そして、この時間が法定労働時間を超えるような場合には、割増賃金の支給対象に当たり得ることとなります。

未払残業代を請求することができる期限(時効)

毎月きちんと残業代が請求されていればよいのですが、実際には、残業代が支払われていないことが後々判明し、後からまとめて残業代を請求するケースが多いです。
しかし、残業代の請求権にも「時効」があります。この記事を作成している段階では、残業代請求権の時効は「3年」(2020年4月までは2年)ですが、いずれ「5年」になることが既定事項になっています。

退職した後でも未払いの残業代は請求できる

在職中の労働者だけではなく、退職した後も、会社に残業代請求を行うことができます。実際には、在職中には関係性などもあり、残業代請求はしにくいため、退職後に残業代請求をするケースの方が多いのが実情です。

ただし、先に見た通り、残業代の請求権には時効があるため、請求することができる期間には少し注意が必要です。

みなし残業が支払われていても残業代が支払われる場合もある

「みなし残業」という単語をご存じでしょうか。
毎月一定時間の残業が発生することを前提に、その残業時間分の割増賃金相当額を毎月定額で支給する場合を言います。「固定残業代」「定額残業代」などと呼ばれることもあります。

このようなみなし残業の仕組みを取っている場合でも、残業代を請求できる場合があります。
まず1つは、みなし残業で想定されている時間を超えて残業をした場合です。例えば、毎月30時間の残業を想定して「残業手当」が支給されているものの、実際には40時間の残業をした場合には、差である10時間分の残業代を請求することができます。

また、場合によっては、みなし残業の仕組み自体が無効とされる可能性もあります。
みなし残業の有効性については、こちらの記事で詳しく解説しているので、興味がある人はこちらも読んでみてください。

みなし残業(みなし労働時間制)の正しい理解

サービス残業は基本的には違法

残業代の出ない残業、いわゆる「サービス残業」は、基本的には違法です。
会社が指示している場合には勿論ですが、明示的に指示していなくても、黙認しているような場合も同様です。

残業申請と残業代

長時間労働を抑止する観点や、労働者の労働時間を管理する観点から、残業の事前申請をルールとして設定している会社もあります。申請を行い、許可がある場合にのみ残業を認める、いわゆる「残業許可制」を取っている会社も増えています。

このような場合、残業申請を行っていないと、残業代を請求できないかというと、必ずしもそうではありません。例えば、他の従業員が皆、きちんと残業申請を行っていたのに、ある特定の人だけが申請をしていないような場合には別ですが、残業申請をせずに残業することが常態化しているような場合には、申請の有無に関わらず、労働時間(残業)と認められる可能性が高くなります。結局は実態が大事です。

また、残業そのものを禁止している会社もありますが、これも結局は実態が大事です。残業を禁止していたところで、労働時間内に終わるような仕事量ではなく、残業が不可避的に生じるような仕事では、「残業を禁止していた」という点はほぼ意味を持ちません。

残業を命じられた労働者は残業をする義務がある(ことが多い)

前提として、雇用契約上の根拠(雇用契約書や就業規則)があり、36協定を締結しており、これを労働基準監督署に届け出ている場合には、基本的には、労働者は残業を拒否することはできません(妊娠・育児・介護等の例外はあります)。ただし、勿論、残業の必要性すらないにも関わらず、残業を命じることはできません。

労働者が残業を拒否できる場合でないにも関わらず、残業を拒否すると、会社から懲戒処分等のペナルティを受ける可能性があるので、少し注意が必要です。

取締役などの役員は基本的には残業代を請求できない

ここまで見てきた「残業」のルールは、すべて「労働者」に適用されるルールです。
労働者と会社は「雇用契約」を締結しており、この雇用契約に基づき、労働者は労働を提供する義務を負い、会社は、残業代を含む賃金を支給する義務が生じます。

他方、取締役などの役員には、基本的には残業代は発生しません。
取締役は、「雇用契約」ではなく「委任契約」を会社と締結します。雇用と委任の違いというと難しいですが、「仕事を行うこと」を依頼するのが雇用で、「経営等を行うこと」を依頼するのが役員の委任契約です。

労働基準法が適用されるのは、あくまでも「労働者」であるため、労働者の定義から外れる役員には労働基準法が適用されず、それゆえ、残業代を含む割増賃金も支給されないこととなります。

ただし、「役員」といえども実態は様々で、中には労働者と何ら変わらず仕事をしている役員もいます。実態が「役員」ではなく「労働者」と評価される場合には、労働基準法が適用される可能性があり、この場合には、残業代等の割増賃金を請求できる余地があります。

退職や未払い、拒否、申請、計算、違法など残業の基本

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